【自治体税収大幅減】県財政に痛手 県民生活の影響懸念

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で、当初約1755億円を見込んでいた県税収入の大幅な落ち込みが避けられない状況となった。自動車税と核燃料税合わせて40億の減収が確実。法人事業税や法人県民税なども大きく減る見通しだ。歳出の見直しによる県民生活への影響も懸念される。国の普通交付税増額は見込めず、交付される災害復旧関連予算も使い勝手の悪い「ひも付き」だ。関係者から「このままでは県財政の危機だ」と悲鳴が上がる。

■消えた40億円

 使い道が自治体に任されている使い勝手の良い自動車税。県は平成23年度当初予算で、1755億5千万円の県税のうち17%に当たる約300億円を自動車税の収入として当てにしていた。しかし、津波被害や避難者が続出した影響などで課税対象となる乗用車やトラック合わせて1万台程度の車検登録が抹消されたとみられる。減収額はざっと4億円に上る。

 一方、原発の定期点検で燃料棒を原子炉に挿入した際、発生する核燃料税は福島第一原発事故と同第二原発の運転停止で、納付は困難な状況だ。県は当初見込んだ44億円から約36億円を減額した。

 自動車税と核燃料税の減額分40億円は23年度当初で県が確保した小名浜港と相馬港の港湾整備事業約40億円に匹敵する。

 県内では震災と原発事故で収益を減らしている法人も多く、法人事業税や法人県民税などの県税収入の大幅な落ち込みも予想される。県財政課職員は「震災以前から県財政は逼迫(ひっぱく)していた。自主財源が失われるのは本当に痛い」と天を仰ぐ。

 県の貯金に当たる「財政調整基金」と「減債基金」の主要基金は、復旧費用がかさむなどして残高がゼロ。創設以来、前代未聞の事態に陥っている。県独自の事業を展開しようにも自主財源がないため歳出の見直しが迫られ、県民生活への影響も出かねない状況だ。

■補填どこまで

 窮状打開に向け県は、災害対策基本法に基づき減収分の一部が次年度以降の地方交付税で補われる「歳入欠陥債」の活用を検討している。

 赤字分を国から借金して補う仕組みだが、全額を補塡(ほてん)できるわけではない。自動車税の場合、地震・津波で被害を受けた車両の減収分は対象になるとみられるが、雇用環境の悪化などで納税できない分についての扱いは不透明だ。

 県内部からは「復興関係予算も国は出し渋りが目に付く。歳入欠陥債についても、どこまで面倒を見てくれるのか心もとない」との嘆きが漏れる。

■見せかけ

 震災対応のため国は23年度、地方自治体への普通交付税を前倒しして交付している。しかし、県は「見せかけの支援」とやゆする。

 本県への23年度の普通交付税総額は2千258億円。通例では4月、6月、9月、11月に分けて交付されるが、今回は4に6月分の一部が、6月には9月分の一部が上乗せされた。だが、総額は増えない。

 災害救助法に基づく災害救助費は、3月から4回にわたって計970億円が交付された。しかし、使途は仮設住宅の建設費や、避難者の民間借り上げ住宅の家賃などに限られ、除染の関連経費や警戒区域などのインフラ整備費には充当できない。

 県幹部は「霞が関が原発事故の痛みを忘れていないなら、使い勝手の良い交付金や補助制度をつくる発想を持つはずだ」と批判する。

予算どう編成 双葉郡8町村見えない財源

 東京電力福島第一原発事故で役場機能を移転した双葉郡8町村はいずれも、9月議会で町村民税や固定資産税の減免を決めた。被災者の負担軽減が目的だが、自主財源の減少が行政運営の大きな「足かせ」ともなりかねない事態だ。

■減る一方の基金

 「原発事故で着の身着のままで避難した町民に町税を払ってくれとは言えない」(楢葉町総務課職員)。「町の財政状況を考えている場合でない。仮設住宅で日々の暮らしに耐えている町民を助けるべき」(大熊町総務課職員)。

 双葉郡8町村は9月上旬、会合を開き、足並みをそろえて町村民税と固定資産税を減免することを申し合わせた。被災者の生活を支援するためだ。

 楢葉町は、平成23年度当初予算で22億4千万円と見込んでいた町税収入の99・5%に当たる22億3千万円を減額した。町道整備や生涯学習の支援、農業振興といった各種事業を取りやめた。一方、福島第二原発関係の固定資産税は課税する方向だ。

 大熊町は福島第一原発の固定資産税や東電からの法人町民税などを活用し蓄えた財政調整基金46億円のうち10億円を、被災者支援事業に充てた。住民に災害見舞金を交付し、避難場所となった公共施設の改修などを進めた。このままでは貴重な基金も減る一方だが、失業し収入の当てもなく仮設住宅で貯金を切り崩して生活する住民もいる。町総務課職員は「基金が減っても町民支援のための資金拠出は今後も続ける必要がある」と訴える。

 原発関連の交付金が潤沢に振りまかれ、公共施設の建設が相次いだ「原発城下町」は今や昔だ。

■五里霧中

 双葉郡8町村にとって、平成24年度の予算編成は「五里霧中」の状態だ。国、県から起債などについての説明がない。

 緊急時避難準備区域が解除された広野町では、住民帰還に合わせて復興事業が本格化する。住民から要望の多い除染事業の他、町内の活性化に向け町民バスの運行や商工関係団体への助成など震災前の環境に戻すためには町単独事業も必要となるが、財源の確保が見通せないのが実情だ。

 23年度は町民税と固定資産税の税収を当初予算の約17億円から10億7千万円に減額した。24年度、一気に税額を上げるのは困難とみられ、税収の減額分を補う歳入欠陥債を活用することなどを想定している。しかし、国が明確な制度指針を示さず、町総務課職員は「24年度の税収は極めて不透明。歳入をどう見込んで予算を編成していくのか見当もつかない」とお手上げだ。

【背景】
 東日本大震災と東電福島第一原発事故を受け、県は平成23年度の自動車税の定期課税を延期した。自動車税は4月1日現在の自動車所有者に課税され、納期限は例年5月末まで。10月31日まで延期され、9月初旬に自動車税の課税対象者に納税通知書が送付された。ただ、東電福島第一原発事故の警戒区域や計画的避難区域、緊急時避難準備区域に指定された田村、南相馬、川俣、広野、楢葉、富岡、川内、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘の12市町村への課税の延長は続いている。また、3月決算法人の法人事業税や法人県民税の納期限は例年5月末だが、9月末まで延長された。