【避難所原則閉鎖】 仮設入居、心のケアは 支援人員、財源に限り

 県内避難所の原則閉鎖を受け、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故により避難を強いられている被災者の仮設住宅と民間借り上げ住宅への入居が加速している。しかし、避難所の共同生活から環境が変わり、心のケアが必要になるなど課題は山積している。県は8日、関係会議を新たに設け対策に乗り出すが、人員、財源が限られる中、どのような支援態勢を構築できるか不透明だ。

■震災のトラウマ

 避難者の多くは震災のトラウマ(心的外傷)を抱える。「死んでしまいたい」「夜、寝付けない」「食欲がわかない」-。

 県相双保健福祉事務所の女性保健師は、巡回先の仮設住宅で悲痛な声を耳にする。入居者は大地震と津波の記憶に心を揺さぶられ、すがるような目つきで胸の底にたまった思いをぶつけてくる。「そばにいるから」。気持ちを解きほぐすように話し掛けるが、時間は限られる。避難者の心のケアに当たるスタッフは限られ、次の訪問は4カ月後になる。

 県内で避難所や仮設住宅の入居者の精神的サポートに当たる保健師や精神保健福祉士ら心のケアチームの人数は60人程度。他都道府県の派遣者は相次いで引き揚げ、ピーク時の6月の約120人から半減した。

 一方、借り上げ住宅の入居者は所在把握のできないケースが多く心のケアをできる状況に至っていない。県障がい福祉課の稲村忠衛課長は「震災のつらい記憶を抱えたまま、アパートなどで周囲から孤立した生活を送っている状態は危険。対策は不可欠」と指摘する。

 県は仮設住宅や借り上げ住宅を巡回させる人員を増やそうと6月から緊急雇用創出基金事業で保健師13人を募集した。しかし集まったのは8人。最も必要とした相双地区では5人の募集枠に採用は1人だった。来年3月までの短期雇用になることなどの要因で応募が鈍いとみられる。

■高齢者を守る

 郡山市のビッグパレットふくしま北側に5日に県内で初めて開所した高齢者サポート拠点施設「あさかの杜 ゆふね」。施設内の交流スペースでは仮設住宅の住民が訪れてお茶を飲みながら会話を楽しむ姿が見られる。運営する川内村社会福祉協議会の職員は「今後イベントを企画するなど多くの人に利用してもらえるように工夫したい」と語った。

 施設は県が設置した。県高齢福祉課によると、阪神大震災の後、仮設住宅での高齢者の孤独死や健康悪化などが問題となった。震災前の地域コミュニティーが崩壊し、生活が一変したことなどが原因とみられている。県はこうした問題に対応するため、拠点施設を郡山市を含めて県内16カ所に建設する。

 郡山市の仮設住宅で1人暮らしをしている富岡町の無職本田智子さん(77)は7日、初めて施設を利用した。しかし「知り合いがいないので落ち着かない」とため息をついた。

 本田さんは8月に二次避難所から仮設住宅に移った。震災前の隣人はいわき市の民間借り上げ住宅で暮らしている。本田さんは「車が運転できず友達に会いに行けない」とうつむいた。一時帰宅で自宅から持ち出した愛用の編み物道具を使いながら寂しさをこらえる日々が続いている。

「仮設は手狭」県に苦情 薄い壁 気になる物音 冬を前に除雪など課題浮上

 避難者の当面の生活の場となる仮設住宅。県内では5月から入居が本格化したが、一般住宅に比べ手狭であることなどから県には苦情が相次いでいる。

■自宅、懐かしい

 福島市の松川工業団地の仮設住宅に入った飯舘村の無職大東マルヨさん(79)は住居の狭さになじむことができない。「自宅から衣服などを持ち込むと生活の場がほとんどない。自宅が懐かしい」

 災害救助法に基づき1戸当たりの床面積は20~40平方メートルに定められている。県営住宅など公営住宅の一般住宅の平均面積は60~70平方メートルで、基準以上の面積を建設した場合、必要経費は県の負担となる。

 県は避難者に配慮し、必要経費も国が負担するように求めている。しかし、国土交通省は「災害救助法により仮設住宅の面積は決まっている」と法律を盾に動かない。

 面積以外にも、県にはさまざまな苦情が寄せられている。仮設住宅は壁が薄く、「隣人の物音が気になる」という訴えも目立つ。県建築住宅課の担当者は「現状の制度では対応することができない」と説明する。「雨漏りする」「壁と床に隙間があり風が吹き抜ける」などといった不満も後を絶たず、県は補修工事に追われる。

 県復興ビジョン検討委員会の委員を務めた有識者の1人は「仮設住宅の設計は阪神大震災の際と変わっておらず、避難者の生活を思いやる設計になっていない」と批判する。

■雪が怖い

 大熊町は、温暖な気候の浜通りから会津若松市に役場機能を移した。市内の仮設住宅550戸で約1200人が生活しているが、冬の到来を前に新たな心配事が浮上している。

 雪の対策だ。同市は町と協議して仮設住宅地周辺の道路は除雪するが、敷地内は町に任せる予定だ。町は業者への除雪委託費など1800万円かかると試算。例年は100万円から300万円ほどのため、6倍以上の予算確保が今後の課題となる。

 雪片付けをした経験がほとんどない町民も多い。町職員の1人は「どうやればいいのか分からない。慣れない作業で、けがでもしたら大変」と表情を曇らせる。市内の仮設住宅に避難する大熊町の主婦遠藤孝子さん(47)は「雪国の会津の冬は想像がつかない。不安だらけだ。寒さも心配で、石油ストーブを購入することを考えているが、それだけで耐えられるか不安」と表情を曇らせた。

【背景】
 災害の際の仮設住宅は、市町村が県に必要な戸数を要請し、県が建設して提供することが災害救助法で定められている。費用は国が約9割、県が約1割を負担する。東日本大震災と東電福島第一原発事故を受け、県内では合わせて1万5447戸の建設が決まっている。このうち1万3573戸が完成、1万191戸の入居が完了している。アパートなどの民間借り上げ住宅は5日現在で2万1226戸となっている。