【要介護認定の申請急増】避難生活、心身に負担 保険料算定やサービス充実、先見えず手探り
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故による避難生活の長期化で、双葉郡8町村で要介護認定の申請が急増している。慣れない生活環境が高齢者の心身に重くのし掛かっているとみられる。介護保険料の増額が懸念される一方、各地に分散した避難者に介護サービスをいかに手厚く提供するか自治体の悩みは尽きない。
■前年同期の3倍
郡山市のビッグパレットふくしま北側の仮設住宅。川内村社会福祉協議会が運営する仮設住宅地域高齢者サポート拠点は連日、10人前後がデイサービスを利用する。仮設住宅に暮らす川内村の女性(79)は「体調も良くなった」と、週2日の利用が待ち遠しそうだ。
足腰が弱く、1人で出歩くことはままならないという。介護認定者だが、避難所生活では介護サービスを受けることができず、晴れない気分の日が続いた。9月の高齢者サポート拠点の運営開始に合わせて利用を始めた。デイサービスが生きがいづくりの場として生活を支えている。
近所に知り合いが少ない仮設住宅での暮らしで、お年寄りは引きこもりがちになり、体力も低下するという。双葉郡8町村で今年4月から5カ月間の要介護認定の新規申請数は前年同期の3倍に上る。
富岡町は要介護認定者の増加に伴い介護サービスの利用も活発になり、事業者への支払いがかさんでいる。その負担は、介護保険料増額という形で住民にはね返る。町は来年度から3年間の介護保険事業計画を策定し、新たな介護保険料を定める。このまま申請が増えれば基準額は現在の月額3200円から倍増する可能性もある。
健康福祉課の担当者は「どう金額を決めたらいいか見極められない」と苦しい胸の内を吐露した。
■行き届かない
楢葉町の申請数は昨年度1年間の95件を既に34件超えた。町は仮設住宅が並ぶいわき市と会津美里町に介護予防事業などを行うサポートセンターならはを開所した。
いわき市内のセンターには連日、「避難先で知人がいない」「出歩かなくなり認知症が進んだようだ」など深刻な悩みが届く。しかし、仮設住宅は市内各地に分散し、民間アパートなどに住む高齢者も多い。センターは仮設住宅で送迎車を巡回させているが、支援の手を行き届かせることは困難だ。主任ケアマネジャーの関谷幸枝さん(58)は「充実したサービスをどう提供していいのか手探りの状態だ」と打ち明けた。
■職員わずか2人
浪江町の8月末までの申請は前年同期の4倍近くになっている。担当者は膨大な申請書類の処理に追われるが、人手が足りない。
新規認定のためには、申請者を個別訪問して身体機能や食事の状況などを調査する必要があるが、対応する職員はわずか2人。健康保険課職員は「速やかに対応したいが、もはや処理能力を超えている」とつぶやいた。
※介護保険
要介護者を社会全体で支えるため、介護サービス利用費を利用者と被保険者、行政が負担する制度。原則として利用料の10%を利用者、45%を被保険者が支払う。残りの45%については国が22・5%、都道府県と市町村が各11・25%ずつ負担する。利用者は市町村から要介護認定、要支援認定を7段階で受ける。その後、ケアマネジャーが策定したケアプランに沿って介護などを受ける。