利用者と古里に 広野で来春再開 帰還見据え「桜染め」復活

■富岡から群馬・高崎に避難 社会福祉法人「友愛会」
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から11日で3年11カ月。原発事故で富岡町から群馬県高崎市に避難している社会福祉法人「友愛会」は来年3月、広野町で施設運営を再開する。障害者支援施設「光洋愛成園」や知的障害者通所授産施設「ワークセンターさくら」など7施設を新築し、入所、通所者約70人と、職員、職員の家族約120人が県内に戻る予定だ。双葉郡での障害者福祉施設再開は震災後、初めて。関係者は帰還の日を心待ちにしている。
震災と原発事故で、施設利用者は群馬県高崎市の国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」に集団避難した。利用していた約100人のうち、家族らと避難した人を除く20代から70代の男女約70人が「のぞみの園」で生活を共にしている。
「早く古里へ戻ろう」を合言葉に帰還を目指してきたが、富岡町への帰還は当分見込めないため、広野町での再建を決めた。職員にとって土地を探すのは初めての経験で、高崎市と広野町を片道3時間かけ、何度も足を運んだという。県や同町などの支援を受け、ようやく候補地が決まった。総事業費は二十数億円で、国、県の補助金と東電の賠償金、借入金で対応する。
林久美子理事長(79)は「避難の長期化は利用者にも職員にも負担になっている。1日も早く戻ることが大事で、広野は富岡、高崎に次ぐ新しい古里となる」と話す。
震災前は、こんにゃくやみその加工品、のりのつくだ煮などを生産していた。平成17年には郵便局とタイアップしてゆうパック「手造りこんにゃく」を販売した。みその加工品やのりのつくだ煮は、県が中国・上海で開いた福島の食材フェアの販売商品に採用された。
桜のトンネルで有名な町の「夜の森公園」の桜を活用してシルクなどに色付けする「桜染め」は18年に物産プラザふくしまの「ふくしま特産品コンクール」工芸・雑貨部門で大賞に輝き、新たな町のブランドとして定着した。
避難後は設備がないため、全ての生産を中断した。内職などをしていたが、「古里に帰った時にまたできるように」と24年、会津からみそを取り寄せ、加工品生産を再開した。「群馬にも『富岡』がある」と、世界遺産「富岡製糸場」内の桜を利用し、「桜染め」も復活させた。
群馬県オリジナルのシルクを使い、富岡製糸場の桜で染めたスカーフが来月から同製糸場内の売店で販売されることが決まった。林理事長は「広野に戻ったら、こんにゃくの生産も再スタートさせ、利用者の自立支援をさらに促進したい」と思い描く。
光洋愛成園などの新築工事の起工式は12日、広野町下北迫の現地で行われる。来年3月にグループホーム5棟を含む7棟が完成する予定。新たに職員を募集する計画もある。
広野町の遠藤智町長は「社会福祉分野で新たな再生につながり町にとっても大きな喜び。今後の双葉地方復興の弾みになる」と期待している。