元の古里自分たちで

地図を広げ、除染計画を話し合う松本さん(中央)ら=4日午前、広野町役場

■いわきから広野町役場に戻った町除染対策グループ
 仕事始めの4日、広野町の本庁舎2階に除染対策グループの職員が顔をそろえた。早速、町内の放射線量マップを広げて意見を交わす。「ここの地区はやはり線量が高い」「国への補助金の申請手続きは進んでいるか」-。
 緊急時避難準備区域の解除に伴い先月、いわき市にある町湯本支所から本来の町役場に復帰した。住民の帰還に向けては、町内の除染をどう進めるかが鍵を握る。解除後、町内に戻った住民は300人前後だ。「1日も早く、1人でも多くの住民が町に戻れるよう全力を尽くす」。グループリーダーの松本正人さん(55)は決意をにじませた。

■-相次ぐ要望
 幼稚園や小中学校の除染を3月末までに終え、新年度の2学期に再開させる。上下水道や道路の本格復旧も進め、年内に住民の帰還を完了する-。町が描く復旧計画に対し、上下水道などの整備のめどは立ったが、除染はまだ役場周辺と幼稚園、小学校までしか進んでいない。
 「家の周りの木を全部伐採して」「庭の表土も除去してほしい」。除染対策グループには毎日のように要望が舞い込む。しかし、全てに応えるには人員が足りない。「何から先に手を付けるべきか。線引き次第では不公平感や不満が増しかねない」。職員はしばしばジレンマに陥っている。

■-満額の保証なし
 松本さんは妻といわき市の借り上げ住宅で暮らしている。来年は古里で正月を迎えたいとの思いを募らせた。妻と3人の息子が県外に避難した時期もある。「早く何とかしてくれ」。息子の発した言葉が今、県外に避難したままの町民からの声のようにも聞こえる。
 町内は国が除染を支援する汚染状況重点調査地域になった。しかし、除染計画を作ったり、実際に作業を進めたりするのは町の責任となる。国の補助金も必要な額がその都度、要望通りに満額支給される保証はない。最後までやり切れるのか。先の見えない不安に襲われることもあるが、国に頼っていてはなかなか前に進まない状況だ。

■-励まし支えに
 「除染が済んでも町には戻れない」。幼い子どもを抱える世帯の訴えは切実だ。除染対策グループの職員の1人は妻、4歳の長女と暮らすいわき市内の借り上げ住宅から通勤している。妻も「放射線量が下がっても、すぐには帰れない」と言っている。町役場周辺の線量は毎時約0.4マイクロシーベルト。健康への影響はないとされる数値だが、幼い子を持つ親の1人として、複雑な保護者の気持ちは痛いほど分かる。
 町外の避難先で年を越した5000人余りが年内に全て戻るかどうかは分からない。除染作業の先行きも不透明だが、町役場を訪れた住民は口々に言い残して帰る。「大変だろうけど頑張って」。松本さんらはそのたびに思いを強くする。「このまま古里を失うわけにはいかない。元の古里を自分たちの手で必ず取り戻す」

【除染対策】
 環境省は先月、原発事故に伴う除染対策として、国直轄で除染や廃棄物処理をする地域に避難区域がある県内11市町村を指定。国の財政負担で行う「汚染状況重点調査地域」には広野町をはじめ県内40市町村を指定した。
 重点調査地域の市町村は地域内の汚染状況を調査し、除染区域を定めた計画を策定後、国の財政負担で除染を進める。しかし、除染区域の選定が難航し、有効な線量低減策も見いだせないなどの理由で16市町村で計画作りが進んでいない。