全通学路を春までに

■教職員、保護者が独自に除染作業 郡山の薫小
地図に落とした通学路は3分の1ほどが赤色になった。郡山市・薫小の教職員と保護者らが独自に除染した場所を表す。「春までには何とか全ての通学路をきれいにしたい」。校長の森山道明さん(56)は意を強くする。
■-相次ぐ転校
東京電力福島第一原発事故後、児童は1人、また1人と学校を離れ、全校生は640人から490人余りに減った。一時は放射線の影響を心配する保護者の送り迎えが増え、学校周辺で交通渋滞も起きた。
森山さんの実家は警戒区域の双葉町にある。この正月は母、兄らが暮らす郡山市の借り上げ住宅で一緒に過ごした。多くの親族が集まり、にぎやかに新年を祝った古里の光景を思い返し、切なさが込み上げた。「転校した児童は一時でも地元に戻り、楽しい正月を迎えられただろうか」。避難してきた自らの家族と、県外に転校した児童が重なって見えた。
■-総力戦
校庭の表土は昨年4月、市が県内に先駆けて除去した。しかし、通学路などは補助があるだけで、作業は基本的に地元任せだ。「校庭だけでは児童の安全、安心は守れない」と学校、PTAが動きだし、一学期に校舎や敷地内を除染した。二学期からは教職員や保護者延べ2500人が参加して毎週日曜日、半径700メートル余りの通学路で作業を続けてきた。
トラック十数台に大きなポリタンクを積み、高圧洗浄機20台で路面を洗う。放射線量を測定し、下がらなければまた繰り返す。毎時2マイクロシーベルトを超えていた場所はおおむね1マイクロシーベルトを下回った。当面は0.6マイクロシーベルト以下にするのが目標だ。
地域住民も作業に加わる。トラックは保護者らが勤務する会社が無償で貸し出し、洗浄機はメーカーが割安で提供している。昨年暮れには約150人が集まり、小雪が舞う中、ゴム手袋にゴーグル姿で側溝の泥をかき出し、アスファルトを洗い流した。PTA会長の佐藤聡さん(45)は「今後もできる限りのことをしていきたい」と力を込める。
■-自力の闘い
市の中心部に位置する学区内は通学路が複雑に入り組んでいる。幹線道路は終えたが、3分の2が手つかずだ。
県は線量低減化活動支援事業として、町内会や子ども会などに上限50万円を補助している。通学路に対する学校への補助はなく、除染費用には子ども会への補助金を充ててきた。
ただ、新年度の支援事業がどのような形になるのかは決まっておらず、関係者からは不安の声も上がっている。除染作業はまだ道半ばだが、森山さんは信じている。「今、学校にいる子どもたちを守ることが、いつか(転校した)児童のためにもなるはず」。学校の自力の闘いは続く。
【学校の安全対策】
県の線量低減化活動支援事業は通学路や側溝など子どもの生活空間の除染に取り組む地域の団体などを対象にしている。申請は増え続け、5日現在で27市町村計837団体に上る。ただ、作業を業者に委託することは認められない。
校庭の表土除去をめぐっては、郡山市が薫小で独自に実施し有効性が示された。以降、同様の動きが広がったことなどから補助が決まるなど、国や県の対応は後手後手に回った。