夢かなえ そろばん"先生"に 喜多方 子どもの笑顔 活力

そろばんの使い方を優しく教える津田さん(左から2人目)

■南相馬から避難し塾を開いた 津田美咲さん(34)
 「先生、できました!」。ストーブがたかれた喜多方市松山町の「つだそろばん教室」に受講生の明るい声が響く。赤ペンでマルを付けるのは南相馬市原町区の津田美咲さん(34)。「教えている時はつらいことも忘れられる」。"先生"になる夢を避難先で実らせた今、子どもの笑顔が活力になっている。
 第二子の出産を控え、事務をしていた県相双保健福祉事務所を昨年2月に辞めた矢先、東日本大震災が起きた。自宅は東京電力福島第一原発事故の旧緊急時避難準備区域。長女花音さん(7つ)らと新潟県などに避難し4月上旬、喜多方市の市営住宅に落ち着いた。
 ある日、市内の「あべ珠算塾」で、被災者向けのそろばん無料体験に参加した。花音さんが楽しそうに珠(たま)をはじくのを見て「自分も教えてみたい」との思いが込み上げた。
 "先生"は小さい頃からの夢だった。短大卒業後、地元企業に就職した後も、ずっと心の片隅に憧れを抱いていた。
 そろばんの指導は資格が必要ないと知った。夢がかなうチャンスだと思った。10月から「あべ珠算塾」に週3回通い、小学校で習った記憶をたどりながら、代表の阿部京子さんから教え方などの手ほどきを受けた。
 12月上旬、同市大荒井地区の集会場を借りて自分の教室を開いた。受講生は花音さんを含む松山小の児童6人。毎週水、金曜日の放課後に、テキストを使って計算や九九を教えている。
 開講中は生後5カ月の長男晃汰ちゃんを同居する義母の早智子さん(70)に預ける。小学校講師の夫光生さん(45)は南相馬市に残ったままだ。放射線量の高さを考えると、古里が遠く感じることもある。ただ、下を向くことはない。そろばんが新たな喜びを与えてくれたから。「先生と呼ばれるのは少し恥ずかしい。でも、子どもたちが覚えてくれると、すごくうれしいんです」
   ◇    ◇
 「つだそろばん教室」では受講生を募集している。問い合わせは同教室 電話080(6040)4275へ。