「根っからの大工」 拍子木 手作り、町に寄贈 「被災者もできることから」

■浪江から本宮に避難 本田 文雄さん(63)
「火の用心」。本宮市の小田部仮設住宅に、東京電力福島第一原発事故のため、浪江町から避難している本田文雄さん(63)の声が響く。町民と共に鳴らす拍子木は、本田さんの手作りだ。「何か作っていないと腕がなまってしまう。根っからの大工なんだ」。
本田さんは、昨年8月から本宮市の仮設住宅で暮らしている。20歳のころから大工の道に進み、浪江町で熟練の職人として腕を振るっていたが、避難に伴い、休業を余儀なくされた。
幸い、ノコギリなどの愛用の大工道具は町から持ち出せた。暇を見つけては仮設住宅の集会所の靴箱を作ったり、住宅の入り口に滑りづらいように溝を付けたりと腕を生かし、住民に感謝されている。
昨年12月、冬の火災に備えるようにと廃材を利用して拍子木を90個作り、浪江町に贈った。福島市の大工仲間の仕事場を借りて、廃材のケヤキを加工した。ひもを通す仕上げの作業は、仮設住宅の住民が手伝ってくれた。町は拍子木を県内各地の町の仮設住宅に配った。「被災者もできることから始めないと。いつまでも、うつむいてはいられない」
仮設住宅で拍子木を鳴らす本田さん。国や東電に対して、言いたいことは山ほどある。しかし「なるべく愚痴は言わない。むなしくなるだけ」と前向きな心を大切にしている。
春になったら、大工の仕事を再開しようと考えている。大工仲間から、仕事の誘いもあった。「いつになるかは分からないが、いつかまた、故郷の浪江町で仕事がしたい」と目を輝かせた。