喜ばれる味これからも 「自分は、これしかない」

道の駅安達の飲食コーナーで再び開店する大槻さん夫妻

■浪江から避難、二本松でスパゲティ店 大槻 政彦さん(57) ヒデ子さん(57)
 二本松市の4号国道沿いにある道の駅安達の直売所飲食コーナーに8日、浪江町高瀬の6号国道沿いにあったスパゲティの店「伊太利庵(イタリアン)」がオープンする。東京電力福島第一原発事故で避難生活を送る店主の大槻政彦さん(57)と妻ヒデ子さん(57)が店を始めて30年目の再出発だ。

 横浜市で洋食の修業をした大槻さんが故郷に戻って独立したのは昭和57年4月。本格的なスパゲティと石窯ピザの店として、浜通り各地から足を運ぶ人でにぎわった。スパゲティはトマトソース、塩味、生クリーム、和風、しょうがしょうゆ味など工夫を凝らした多彩な種類をそろえた。ピザもソースなど自家製にこだわった。
 東日本大震災の発生時、営業中の店は壁にひびが入り、窓が割れた。片付ける間もなく原発事故により避難を余儀なくされた。一時、県内の親類宅にいたが、3月下旬、富山県に避難した。「次第に震災や原発事故の情報が入らなくなった」。本県に戻る決意をし、昨年9月に本宮市の仮設住宅へ入った。
 「転職も含め今後どうするか迷ったが、自分には、これしかないと思った。避難先で店を再開したい」。落ち着く間もなく場所を探し、道の駅安達への出店を決めた。厨房(ちゅうぼう)は個別だが、座席は他店と共有する。食券を買う自動販売機の関係でメニューは限られるものの、スパゲティ約20種類を出す。
 大槻さんは「初めての土地で手探りの出発に不安はある。なじみの客はもちろん、新たなお客さんにも喜んでもらえる味を提供したい」と、厨房に掲げた浪江町の店と同じ文字の看板を見上げた。