希望、元気土に込め 懸命に窯復旧、長女帰郷

土の持つ癒やしを提供したいと話す(左から)みつ子さん、矩慶さん、博子さん

■いわき市田人・陶芸店経営 後藤矩慶さん(69)みつ子さん(67)博子さん(41)
 「焼き物の力を信じ、親子で田人を元気にする」。いわき市田人町の289号国道沿いで陶芸店「土みに館」を営む後藤矩慶(かねよし)さん(69)みつ子さん(67)夫妻は、昨年4月の東日本大震災の巨大余震で敷地内の窯や制作した作品などを失った。しかし、大きな被害に負けず陶芸を続ける。今月、長女で陶芸家の博子さん(41)が栃木県益子町から加わった。3人は「親子がそろって陶芸をできてうれしい。土が持つ癒やしの効果を、心を痛めた福島の人々に提供する」と声をそろえる。
 後藤さん夫妻は平成17年、自然環境の良さに引かれ、茨城県から移り住んだ。市内で取れる粘土を使った作品を「田人峯巒焼(たびとほうがくやき)」と名付けた。また、江戸時代に地域で焼かれた「名古曽(なこそ)焼」を復活させた。陶芸教室も開き、市内外から多くの生徒を集めていた。
 平穏な日常を襲った地震。昨年3月11日の本震で特に被害はなかった。4月の余震は震源地が近かったこともあり、耐火れんが製の無煙窯など3基が崩壊した。みつ子さんは店舗前の山が大きな音を立てて崩れる様子を目撃した。
 4月11日の余震直後、2人は茨城県に避難した。しかし、矩慶さんは「やっぱり田人で作りたい」と数日で戻り、窯造りと店の再開を目指した。みつ子さんには余震の恐怖心などが残ったが、生徒から教室再開の希望が届いたことや、夫と一緒に陶芸をしたいとの思いから戻ることを決意。2人の懸命の復旧作業で、5月に店の再開にこぎ着けた。教室も再開した。
 博子さんは両親の影響で幼いころから陶芸を始め、いずれ両親と一緒に作陶をと考えていた。巨大余震が帰郷のきっかけとなった。
 店内には3人の作品が並ぶ。「和める店にしていきたい。いつか一緒に展示会を開きたい」と顔を合わせた。