旅館再開、地域に恩返し 全壊、父母の死... 廃業危機乗り越え

■鏡石温泉「扇屋会館」 小林勇雄さん(62)圭子さん(55)夫婦
鏡石町本町のかっぽう旅館・鏡石温泉「扇屋会館」は1日、3年ぶりに再開した。経営者の小林勇雄さん(62)圭子さん(55)夫婦ら家族は皆、感無量の思いでこの日を迎えた。
扇屋会館はJR鏡石駅に近い中心街にあり、東日本大震災で全壊の被害となった。当日は約70人の宴会客らの受け入れを準備する矢先だった。1、2階とも天井が壊れ、ボイラーやガス管が破損した。「ぼうぜんとしながらも、けが人がないことにひと安心した」と勇雄さんは振り返る。
勇雄さんは町消防団長を務めており、すぐに大きな被害に見舞われた街を見て回った。それから約1カ月、町役場の災害対策本部と行き来しながら町全体の応急復旧などの陣頭指揮を執った。
父俊雄さん=当時(87)=は震災の後、体調を崩すことが多くなり4月に亡くなった。母喜久子さん=当時(80)=も同様に10月に他界した。不幸続きの当時、小林さんの脳裏にはいつも「廃業」の2文字が浮かんだという。
転機は翌年だった。東京都内の会社員だった長男路一さん(35)が妻沙智子さん(33)らとともにUターンを決意した。路一さんは調理師の資格を持っており、旅館を改修しダイニング居酒屋「扇屋」を併設する計画に賛同した。
震災復興のグループ補助金などで再建資金のめどは付いた。小林さん夫婦は「感謝や恩返しのため、新しい扇屋会館は気軽に立ち寄れる地域のコミュニティーの場にしたい」と話している。扇屋会館はフリーダイヤル(0120)622026。