遺族ら東電提訴へ 双葉病院の避難患者 11人慰謝料求め

亡くなった正さんの遺影に手を合わせるノリ子さん

 東京電力福島第一原発事故を受けて大熊町の双葉病院から避難している最中に死亡もしくは行方不明となった患者11人の遺族・家族が、2013年2月にも東電に対して1人当たり約2000万円の死亡慰謝料などを求めて東京地裁に集団で提訴する。10日、取材に応じた代理人に就く弁護士によると、同病院の避難をめぐる提訴は初めて。原発事故に伴う避難で多くの尊い命が失われた患者に対する東電側への責任追及が始まる。
 弁護士によると、現段階で訴える意思を示しているのは避難中に亡くなった63歳から99歳までの男女10人の遺族と、避難の途中で行方不明になった1人の合わせて11人の遺族と家族。
 死亡した10人はいずれも震災関連死の認定を受けている。行方が分からなくなったのは認知症を患っていた女性で、混乱を極めた避難の途中で姿が見えなくなったという。家族が家庭裁判所に失踪宣告を申し立てているという。政府の原発事故調査・検証委員会は双葉病院からの避難に伴う死者を50人としている。原告団は全てを対象とする考え。請求する死亡慰謝料の1人当たり約2000万円は、交通事故で死亡した人の遺族に支払われる賠償金を基に算定した。
 弁護士は「東電はいまだに遺族に対する十分な謝罪をしていない。訴訟を通して尊い命を失う原因をつくった東電側の責任を明確にしていきたい」としている。

■「書類提供し協力」 双葉病院の担当者
 双葉病院の担当者は「(双葉病院の)中間報告後も原因の究明に向けて調査を継続している。遺族・家族には裁判で必要となるであろう診断書など必要書類の提供を通じて協力していきたい」としている。

■遺族「裁判で明らかに」
 「おれは130歳まで生きるから」-。東日本大震災前日の昨年3月10日、双葉病院の西病棟1階にある6人部屋に安倍正さん=当時(99)=の張りのある大きな声が響いていた。浪江町棚塩の自宅から夫正義さん(76)の父、正さんを見舞った安倍ノリ子さん(71)は「じいちゃんの100歳賀寿と私たち夫婦の金婚式を一緒にお祝いしようね」と声を掛けた。何気ないひと言が最後の会話になった。幼いころに実父を亡くしたノリ子さんにとって嫁ぎ先の正さんは父親のような存在だった。ノリ子さんは「とても明るく、快活で、原発事故がなければ100歳を迎えていたはず」と避難先の相馬市の住宅にある仏前にそっと手を合わせた。
 原発事故から1週間ほど正さんの所在がつかめなかった。警察や行政など心当たりに片っ端から問い合わせをした。3月19日、一緒に居た次女の携帯電話が鳴った。相馬署からの「正さんかも知れない」と告げる電話だった。
 いわき市の遺体安置所に駆け付け、ひつぎの中をのぞき込み、泣き崩れた。
 ノリ子さんは「なぜこのようなことになったのか、裁判で明らかにしたい。それがせめてもの供養になるはず」と原告団に参加する決意を語った。

※双葉病院をめぐる避難 同病院は大熊町にある私立の精神科病院で、東京電力福島第一原発からの距離は約4.5キロ。政府の原発事故調査・検証委員会の最終報告書によると、双葉病院の患者、隣接する介護老人保健施設の入所者のうち自力歩行が可能な209人が昨年3月12日に政府のバスで病院を離れ、同16日までに避難が完了した。病院は今年9月30日、いわき市で説明会を開き、遺族に対して「病院側に過失はない」との病院としての中間調査結果を発表した。一方で「患者の死亡は原発事故と因果関係がある。東電への損害賠償請求の要件を満たしている」との考えを示している。