東電へ1億2500万円賠償提訴 双葉病院患者ら4人の遺族

訴えの内容を説明する新開弁護士(右)=10日、東京・司法記者クラブ

 東京電力福島第一原発事故に伴う避難で体調を崩して亡くなったとして、大熊町の双葉病院と隣接する系列の介護老人保健施設の患者・入所者合わせて4人の遺族15人は10日、東電に対して総額約1億2500万円の賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。司法が原発事故による避難と死亡との因果関係をいかに判断するかが焦点となる。原発事故に伴い命を落としたとして東電の責任を問う他の裁判の行方にも影響するとみられる。

■避難と死 因果関係が焦点
 提訴したのは双葉病院の60~90代の男性患者3人と、介護老人保健施設「ドーヴィル双葉」の80代の女性入所者1人の遺族。
 4人の遺族は「平成23年4月までに、福島第一原発事故による長時間・長距離の避難で体調を崩して死亡した」として、東電に対して患者・入所者1人当たり約3300万円の支払いを求めた。死亡した4人はいずれも震災関連死の認定を受けている。
 同病院と同施設には、震災時、約440人がいた。5日後の3月16日までに避難が完了した。政府の原発事故調査・検証委員会は、このうち50人が避難に伴う環境の変化などで死亡したとしている。原告団は原発事故と死亡との因果関係を明確にして立証する狙いで、平成23年4月までに亡くなった患者・入所者に絞り込んで提訴した。原告側代理人を務める新開文雄弁護士(福島市)によると、同病院の患者の遺族が提訴するのは初めて。
 原告団はさらに避難途中で行方不明となり、昨年11月に家族が失踪宣告を申し立てた認知症の女性を含む患者3人についても追加提訴する考え。23年5月以降に死亡した患者の遺族は今後、損害賠償を求めて原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てるという。
 新開弁護士は10日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見し、「原発事故と患者らの死亡の因果関係を明確にする一方で、原発事故による避難が原因で命を落とした人への賠償基準を明確にしたい」と語った。判決で賠償基準が示されれば、福島第一原発事故との関連をめぐって争われている他の損害賠償請求訴訟にも適用される可能性がある。

■双葉病院「資料提供などで協力」
 双葉病院は代理人を通じて「東電に対する無過失補償請求に資料の提供などの形で協力します。あらためて患者さん、入所者さんのご冥福をお祈りします」とのコメントを発表した。同病院は昨年9月、「病院側に過失はない」との中間調査結果を発表。「患者の死亡は原発事故と因果関係がある。東電への損害賠償請求の要件を満たしている」との見解を示している。
 提訴を受けて東電の担当者は「正式に(提訴は)承知していない。訴訟に関しては回答を差し控えさせていただく」とコメントした。

■遺族「原因はっきりさせたい」
 「義父の死は原発事故が原因だったと、はっきりさせたい」-。夫が原告団に加わった相双地方の女性は10日、静かに語った。
 女性は東日本大震災が起きるまで、浪江町に住んでいた。自身もやっとの思いで自宅から避難したが、双葉病院から90代の義父を連れて逃げられなかったことを悔いている。「なぜ一緒に避難できなかったのか」。実の父のように慕っていた義父の死が心から離れない。女性は「慰謝料を求めているわけではない。どのような状況で避難したのかを明らかにしたいだけ」と話した。

■山木屋、浪江などの住民の遺族が提訴
 東京電力福島第一原発事故をめぐっては、将来を悲観し自殺に追い込まれた-として川俣町山木屋や浪江町、相馬市などの住民の遺族がそれぞれ、東電に対して損害賠償を求めて福島地裁などに提訴している。

※双葉病院と東京電力福島第一原発事故
双葉病院は大熊町にある私立の精神科病院で、福島第一原発から約4.5キロの地点にある。政府の原発事故調査・検証委員会の最終報告書によると、病院の患者と隣接する系列の介護老人保健施設の入所者のうち、自力歩行が可能な209人が東日本大震災翌日の3月12日、政府のバスで避難をした。14日には132人が自衛隊のバスで病院を離れた。同16日までに避難を完了した。同委員会は避難に伴う環境の変化などで計50人が死亡したとしている。