第2部 営業損害(10) 「死ねと言うことか」 政府、東電「終了」の素案

昨年12月22日、東京電力福島第一原発事故による休業が続く南相馬市小高区の小高赤坂病院の院長・渡辺瑞也(みずや)さん(72)は込み上げる怒りをこらえ切れず、体を震わせた。「この資料は何だ。死ねと言うことか」
福島市のホテルの会議室。会合には商工業や観光、医療関連などの約20団体の関係者が顔をそろえた。経済産業省資源エネルギー庁と東電の担当者は、原発事故に伴う営業損害の終期について考え方を説明した。渡辺さんは県病院協会の一員として臨んだ。テーブルに置かれた資料は、営業損害賠償を原発事故から5年となる平成28年2月分で終了するとした素案だった。
質疑応答の時間に入ると、渡辺さんが口火を切った。「被災地の事業者は立ちゆかなくなる。原発事故前の状況に戻るまで、継続すべき」。各団体の出席者からも素案の見直しを求める声が上がった。
避難指示解除準備区域内にある小高赤坂病院は、東電から今月分までの営業損害賠償を受けた。病棟建築に伴う金融機関からの借入金返済、在籍している職員の社会保険料、辞めた職員の退職金などに充て、一部を再開後の運転資金として蓄えた。
昨年浮上した相双地方北部での移転再開計画は、県の補助事業の内容変更によって頓挫した。現状では、元の病院で再開する道しか残っていない。周辺の避難区域が解除され、住民の帰還により「診療圏」が復活するまで、賠償金に頼りながら耐え抜くしかないのが実情だ。
今回の素案によると、営業損害の賠償金支払いは今後1年分で終了する。避難区域内の賠償期間は、国の基準が根底にある。公共事業などで土地を収用する際、商工業者らに支払われる補償は2年で打ち切られる。その2倍の4年分に1年分の一括払いを上乗せしたとされている。
ただ、原発事故は広範囲に放射性物質を拡散し、住民は今も避難を余儀なくされている。「地域社会は崩壊・変質した。公共事業による移転とは違う」。渡辺さんは素案に納得できない。
原発事故で延長措置が講じられていた国税申告・納付の猶予期限は3月末に迫る。営業損害の賠償金は課税対象となる。会計事務所に依頼して納税額を精査しているが、総額で1億円を大きく超える可能性がある。
借入金返済などの支出と納税額を合わせると、原発事故発生後に受けた賠償金はほとんど残らず、病院の再開どころではない。
原発事故から間もなく4年が経過する。病院は休業から脱却できない。むしろ状況は悪化していると感じている。「国は原発事故の特殊性を踏まえた賠償制度を整えるべきだ。既存の法律や制度に基づく対応では、被災事業者は救われない」