第3部 課税(21) 政府の対応 時遅く 納税後に軽減制度創設

浪江町の葬儀場を再開させるため改修工事に着手した朝田さん。課税対象の営業損害賠償などの納税を済ませた後に、国の税負担軽減措置が創設された

 東京電力福島第一原発事故で全町避難を強いられた浪江町の6号国道沿いに、冠婚葬祭業「如水」の結婚式場と葬儀場がある。

 「結婚式の需要は皆無だが、『葬式は浪江でやりたい』という要望が寄せられている。葬儀場の再開は私の使命だ」

 社長の朝田宗弘さん(72)は、町が帰町開始の目標に掲げる平成29年3月以降、避難指示解除準備区域にある葬儀場「如水典礼さくらホール」を再開させる考えだ。「避難先で亡くなった大切な人を古里で弔う場所が必要になる」。2月から改修工事に入った。

 ただ、事業再開への道のりは険しい。避難区域が設定された12市町村は国税の申告・納付が3月31日まで猶予されてきたが、朝田さんは4年分の確定申告をして驚いた。所得税や法人税などの納税額が数千万円に膨らんだ。「こんなに課税されるとは予想外だった」。事業再開に必要な準備資金から捻出するしかなかった。

 昭和61年の創業以来、朝田さんは妻の邦子さん(70)ら社員とともに、数多くの町民の慶事と弔事を見守ってきた。「値段が安く、料理も良くて、内容も良い」をモットーに、二十数年前のピーク時は年間約4億円を売り上げた。しかし、身を粉にしながら働いた充実の日々を原発事故が奪った。

 瓦が落ちたチャペルは雨が漏り、ぼろぼろになった。営業損害賠償などから数千万円を投じて修理した。「避難区域の結婚式場に式の依頼など来ないのは分かっている」。だが、思い出が詰まった施設が朽ちていくのを黙って見ていられなかった。

 改修が進む葬儀場の整備費も営業損害賠償などから充てる。1000万円以上掛かると見積もる。「帰町が始まって葬儀場を再開しても、すぐには採算がとれないだろう」。だからこそ、運転資金をためておかなければならない。

 賠償金を元手に事業を再開する避難者は少なくない。だが、国は営業損害賠償を課税対象とした。「逸失利益に課税するのはあまりにも酷だ。国は何で非課税にしなかったのか」。朝田さんは語気を強める。

 改正福島復興再生特別措置法が4月に成立し、「福島再開投資等準備金制度」が創設された。古里での事業再開に向けた準備金は今後、積み立て計画を県に申請して認められれば、課税を免除される。

 朝田さんは既に数千万円の税金を納めた。「遅すぎる。葬儀場を再開するための準備金から多額の納税をした後では何の意味もない」。国の税負担軽減措置は遅きに失したとみている。

 営業損害賠償がいつまで続くかも不透明だ。「賠償が打ち切られれば倒産する。避難を強いられてから、理不尽なことばかりだ」