第4部 精神的損害(25) 与党「憎まれ役」に 期間明示、苦渋の決断

自民党の東日本大震災復興加速化本部の額賀福志郎本部長(71)=衆院茨城2区=は6月3日、東京・永田町の党本部で広野町の遠藤智町長(54)と、川内村の遠藤雄幸村長(60)らに詰め寄られた。
「賠償格差が拡大することに到底納得するものではない」。遠藤町長らは地元の現状を説明し、精神的損害賠償の格差是正を図るため、生活再建仕度金の支給などを求めた。額賀氏は「具体的に手法を考えたい」と神妙な面持ちで答えた。
加速化本部が5月にまとめた第5次提言は東京電力福島第一原発事故による居住制限、避難指示解除準備の両区域の精神的損害賠償を平成30年3月まで支払う方針を掲げた。早期に避難指示が解除されても住民に対する月10万円の賠償が続くことになる。
だが、広野町や川内村などに設けられた旧緊急時避難準備区域は対象に含まれなかった。与党による「線引き」の内側と外側で賠償金の受取額の差がさらに広がる。両町村長は「分断」への危機感をあらわにした。
「悩ましい問題だが、どこかで区切らなければならなかった」。復興加速化本部の井上信治事務局長(45)=衆院東京25区=は苦渋の決断だったと振り返る。
昨年秋、第5次提言の取りまとめに向けた準備に入った。本県などの被災地を巡り、首長らと意見を交わした。避難区域を抱える市町村では、復興が進まず悩み続ける地元関係者と面会を重ねた。「平常な生活ができるまで賠償を続けてほしい」「賠償に頼り過ぎるのも困る」。賠償や避難指示をめぐる多様な声が寄せられる中で、賠償期間や避難指示解除の時期を与党の立場から明示する必要性を感じた。
本県選出国会議員との議論も熱を帯びた。最終的に、避難指示解除から1年後で打ち切られる精神的損害賠償を見直す方向性などを提言に書き込んだ。政府が改定した原発事故からの復興指針にも反映された。
「与党として憎まれ役を引き受けてもいい。踏み込んだ内容を示すべきだと判断した」。井上氏は胸中を明かす。
政府・与党は賠償期間や避難指示解除の時期の設定を「被災者の自立を促すため」と説明する。これに対し「病院に入院させておきながら、そろそろ退院してくださいと言われているようなもの」と声を上げる被災者もいる。
内堀雅雄知事(51)は6月8日の記者会見で「自立」を多用する政府の姿勢に「(避難地域や住民の)自立は決して簡単ではない。そうした局面にある人々、地域には簡単に使えず、違和感を感じる」と、くぎを刺した。