第4部 精神的損害(30) 実態即した対応を 拙速幕引き 反発必至

東京電力福島第一原発事故に伴う居住制限区域、避難指示解除準備区域の精神的損害賠償を避難指示の解除時期に関係なく平成30年3月まで支払い続ける方針を示し、生活再建や帰還を促す動きを見せる政府。一方、政府の思惑と現実の暮らしのはざまで揺れ動く住民がいる。原子力災害の損害賠償に詳しい大阪市立大の除本(よけもと)理史教授(43)は取材に応じ被害実態に即した賠償の必要性を訴えた。
-精神的損害賠償の見直しは妥当、適正な判断だったのか。
「(政府の復興指針改定は)賠償格差の是正というより基本的に帰還促進策だ。賠償は本来、被害者の権利回復のためになされるものであり、政策的意図により賠償の在り方をゆがめるべきではない。被害実態に即した賠償こそ必要だ」
-賠償の見直しによって避難指示の解除や復興は進むのか。
「政府としては避難指示解除に関する自治体、住民との協議は進めやすくなるだろう。しかし、避難者の生活再建や人間の復興につながるかは疑問だ。意向調査を見ても、帰還を望まない住民は少なくない。放射性物質による汚染やコミュニティーの喪失などさまざまな理由がある。戻れない事情に丁寧な対策を取らなければ真の復興はあり得ない」
-賠償の打ち切りと避難指示解除とを連動させることをどう考えるか。
「政府の改定指針は避難指示解除時期を賠償終期と部分的に切り離すとともに、賠償の打ち切りを言明することで、大枠としては『賠償収束』宣言という性格を持つ。改定指針は生活・生業の再建支援策を強調しているが具体的な内容は明らかでない。賠償と復興過程を対立的に捉えるのではなく、復興を進めながら、なお残る被害に対して適切な賠償を実施すべきだ」
-賠償の見直しで住民間の摩擦が深刻化するとの指摘もある。
「改定指針で賠償格差が是正されるわけではない。避難指示区域内で精神的損害の賠償額を均等化すると、今度はその外側の旧緊急時避難準備区域などとの格差が広がる。賠償に差があっても、汚染状況などの被害実態と合っていれば納得が得られるはずである。被害実態とずれているから不満が高まる」
-賠償をめぐる課題をどう解決していくべきか。
「原子力災害からの復興には長い時間を要する。拙速に幕引きをしようとするほど、むしろ問題をこじらせてしまう。政府も東電も、長期の復興過程にきちんと向き合う姿勢が求められる。しかし、被害者の権利回復と原子力災害からの復興を、賠償制度の改善だけで実現できないのも明らかだ。医療や健康、福祉、住居、就労などさまざまな面での支援措置と、賠償制度を適切に組み合わせて、総合的な対策をつくり上げることが必要となる」=第4部「精神的損害」は終わります。