福島をつくる(1) 第1部 企業の覚悟 林精器製造(須賀川)

主力商品の腕時計ケース。長年培ってきた技術に裏打ちされている

<いいものをつくる>
 須賀川市のJR須賀川駅から北へ約2キロ離れた4号国道沿いに、紺と白色の真新しい社屋が立つ。精密金属部品加工業・林精器製造の須賀川本社事業所は正面玄関に行書で記した社是を飾っている。目線の高さに合わせた。社員は毎朝持ち場に就く前に気持ちを引き締める。5日、今年の仕事が始まる。
 6代目社長の林明博(65)は2日、東京都内の自宅で過ごした。家族との団らんは半年ぶりだった。今年は医療機器の製品化に力を入れる勝負の年だ。事業所のある北の空に、社是に恥じない製品作りを誓った。

 主な製品は腕時計の精密な内部を守る時計側(ケース)。セイコー、カシオなど国内の大手メーカーに卸す。セイコーの最高級ブランド「グランドセイコー」は売り上げの多くを占める。カシオは国内で生産する金属ケースの全てを請け負う。「Gショック」は若者に根強い人気があるブランドで、安定した生産を続けている。社員はパートを含めて329人おり、従業員数は市内で三指に入る。9割以上を地元から採用している。
 大正10(1921)年に東京都で創業した。太平洋戦争による疎開で、昭和18(1943)年に須賀川市に拠点を移す。現在は郡山、玉川の両市村に事業所を設け、本県を代表する企業に成長した。90年以上の歴史の中で販売網は徐々に広がり、国内外の約100社と取引している。

 時計のケースは手作業で磨く。指先の洗練された技が求められる。研磨機が1列に並ぶ。顕微鏡をのぞく。左手に製品を乗せ、右手に持つ研磨用の工具を当てて、ゆっくりと滑らせる。完成品に違いが生じないよう、感覚を研ぎ澄ます。
 出来上がった部品を見比べる。ほんのわずかな傷も見逃さない。職人技が生む製品は青白く、まばゆい輝きを放つ。
 年末の繁忙期、林は工場を見て回った。作業に集中する男性社員に声を掛け、頼もしそうにうなずいた。旧須賀川工場の全面改修から2月で2年を迎える。「あの時、この光景は想像できなかったよ」。平成23年、東日本大震災で会社は存続の危機に陥ったが、社員のものづくりへの情熱は失われなかった。
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 平成27年が幕を開けた。震災から4年が過ぎようとする中、県内の企業は新たな覚悟で挑戦を始めている。ものづくり、人づくり、地域づくり...。全てが復興へ向かう力となる。新しい福島をつくる担い手の姿を追う。(文中敬称略)