福島をつくる(8) 第1部 企業の覚悟 浜通り交通(楢葉)

<地域の笑顔のため>
原発方面から次々と車が流れてくる。車内には真っ白い防護服を着た作業員...。
浜通り交通社長の永山剛清(53)は東京電力福島第一原発事故から約2週間後に楢葉町の本社に戻り、目の前の6号国道で見た光景が忘れられない。見えない放射線への恐怖が込み上げた。福島第一原発の建屋近くで働く作業員の心境は想像できなかった。
運行できるバスは3台しかなかったが、永山と専務の塚越良一(50)は運転手2人を確保し、4月4日に送迎を始める。広野町の二ツ沼総合公園やJヴィレッジで作業員を乗せ、福島第一、第二の両原発へ走らせた。原発では24時間、作業員が交代で出入りしていた。核燃料を安定して冷却させるため、高線量の中で懸命の作業を続けていた。
「頑張ってくれ」。永山は祈りながらハンドルを握り、作業員を無事に送り迎えする役目に徹した。
「いつも頑張ってるな」。運転手の高木堅士(42)がバスの点検をしていると、永山が声を掛けた。高木の顔が自然とほころぶ。原発事故から3年10カ月が過ぎようとしているが、永山は社員が今も不安と使命感のはざまで揺れていると感じ、気を配る。
福島第一原発の風景は事故当初から大きく変わった。構内の木々は姿を消して駐車場が広がり、汚染水をためる巨大なタンクがひしめく。運転手は毎日見続けている。
高木は「一刻も早く原発を安定させるのが最も大切」と表情を引き締める。東日本大震災後、女の子が生まれた。子どもが伸び伸びと遊べる環境に戻すためにも、作業員を送る裏方の仕事は必要だと話す。
浜通り交通は平成26年、創業10周年を迎えた。いわき市自由ケ丘に、もう一つの拠点となるいわき本社を建てた。5月には10周年の式典を催し、双葉地方町村会と、いわき市東日本大震災遺児等支援事業基金へ善意を寄せた。「福島は最先端技術を集め、必ず復興を実現する」。永山はいわき市と双葉郡のまちづくりに少しでも役立ちたいと思いを一層強くする。
いわき本社の社長室に、みこしが飾られている。永山が手を伸ばす。「祭りは人を笑顔にするから」。人の笑みがあって初めて自分が幸せになれると言う。
運転手は作業員とも観光客とも会話を弾ませる。笑顔と幸せを求め、バスはきょうも走る。(文中敬称略)