(5)住みたくなる街に

■南相馬市ITシステムエンジニア 森山貴士さん 29 (中)
東京電力福島第一原発事故の避難区域になっている南相馬市小高区。JR小高駅に近い街の中心部に、地域復興に向けさまざまな事業を展開している株式会社「小高ワーカーズベース」がある。
ガラス張りのオフィスで、ITシステムエンジニア森山貴士(29)は同社代表の和田智行(38)らと頻繁に意見を交わした。避難指示解除後、住民帰還をどう進めていくのか。「戻ってくださいとお願いしても駄目だ。住みたくなる街を活字で提案してみよう」。フリーペーパー(無料情報誌)の創刊が決まる。県の地域創生総合支援事業に採択され、事業費150万円の3分の2が補助されることになった。
フリーペーパーはB5判12ページで4000部作った。タイトルは「小高の少数力(しょうすうりき)」。「小高や南相馬は、これから面白くなる」。今後の地域づくりに向けて今はまだ少ない仲間を増やしていきたい-との思いを込めた。
力を入れた企画は地域活性化に取り組み、成果を挙げた全国の市町村の紹介だ。「小高でもできるんだ」と伝えたかった。
森山がかつて訪れた島根県の離島、海士(あま)町を取り上げた。高校生の発想を基に、大人がさまざまなアイデアを出し合って課題解決を進めるプロジェクトを展開した。「自分も関わりたい」と、全国から約200人の若者が移住したという。全人口の1割に当たる数だ。中には、自らかつて勤務した東京都のIT関連企業の同僚もいた。大学時代の友人にも出会った。生き生きした表情がうらやましくもあった。
高速の光ファイバー網を整備した結果、IT企業12社がサテライトオフィスを開設した徳島県神山町などの例も掲載した。本業のIT技術を駆使して、見やすく誌面をまとめた。
「小高の少数力」は今月中旬、大半が市内外に避難している小高区の全3280世帯に郵送される。市内の公民館などでも配布する。2月に第二号、今春には第三号を発行する予定だ。
森山は「フリーペーパーによって人が動きだしてくれたらうれしい」と期待している。和田は森山について、「視点が新鮮で、われわれが気付かない小高の可能性を見いだしてくれる。自分自身、南相馬で成長しようとしている」と話す。(文中敬称略)