(11)「こだわり」を掲載

「シェフのトマトハンバーグ 福島野菜のソテーを添えて」。掛け紙には生産者の思いやこだわりを掲載している

■郡山市コンセプト・ヴィレッジ社長 馬場大治さん 28 (中)

 ウクライナに答えはなかった-。
 県産農産物の商品開発などを手掛けるコンセプト・ヴィレッジを創業した馬場大治(だいち)(28)。平成25年、福島大が運営していた人材育成プロジェクト「ふくしま復興塾」の塾生としてチェルノブイリ原発事故に見舞われた現地を訪問した。
 かつては社会主義が敷かれ、農産物の流通は国が管理した。そのためか風評被害とは無縁だった。「福島の農家が直面しているのは世界で初めての事態だ」と強く感じた。問題を解決するには、行政と生産者だけの取り組みでは壁にぶつかる。民間企業を巻き込む必要がある。県内の食材で作った弁当を大消費地・東京の企業に売ってみようと動いた。


 「麓山高原豚のあまから焼き弁当」。25年12月、県産食材だけを使った「福島に"つながる"弁当」の第一弾を発売した。
 掛け紙は新聞の一面を模した。「麓山高原豚へのこだわり」の見出しが踊る。裏面には須賀川のピクルス、会津煮などを提供した全員の名前と写真、PRの言葉を掲載した。食べながら読めば、関係者のこだわりが分かる。
 最初はふくしま復興塾を支援していた大手飲料メーカーなどに売り込んだ。1個1200円(税込み)と決して安くはなかったが、「復興支援のため」と購入してくれる企業が次々に現れた。味はもちろん、信念を持った福島の農家への共感が広がり、たびたび買ってくれた会社もある。


 決して順風満帆というわけではなかった。個人経営のため、何でも1人でこなす。県内の農家に何度も足を運び、食材の供給元を見つけた。弁当の製造販売は埼玉県内の工場に委託したが、調整が行き届かず材料が届かない日もあった。自ら配達して回った時も。くじけることなく、新たな「つながる弁当」の開発を続ける。26年9月には都内の日本橋ふくしま館MIDETTE(ミデッテ)での店頭販売が実現した。
 昨年11月には、「シェフのトマトハンバーグ 福島野菜のソテーを添えて」をヤフーと共同で開発した。JR東京駅構内で売り出したところ、1日分50食がほぼ毎日完売した。12月からは羽田空港でも販売を始めた。
 「つながる弁当には多くの県内農家が関わっている。消費者に福島の食の魅力を伝えることができている」と手応えを口にする。(文中敬称略)