(12)農業は強くなれる

寺山と梨畑を回り、収穫の日に思いをはせる馬場(右)=須賀川市の阿部農縁

■郡山市コンセプト・ヴィレッジ社長 馬場大治さん 28 (下)

 「おいしい梨がたくさん実るといいですね」。県産農産物の商品開発などを手掛けるコンセプト・ヴィレッジ社長の馬場大治(だいち)(28)は須賀川市の阿部農縁(のうえん)を訪れた。経営者の寺山佐智子(47)とともに、果樹畑や大きな白菜が収穫を待つ畑を回った。
 寺山は馬場について「頼りになるビジネスパートナー」と評価する。東日本大震災後、「何か手伝えることはないか」と訪ねてくる人は多くいたが、全てその場限りに終わった。寺山は馬場が考案した「福島に"つながる"弁当」の食材を提供している。馬場が企画する農産物直売会にも積極的に出品している。「いろんな可能性が広がった」と目を輝かせる。

 馬場は阿部農縁の加工品のパッケージやチラシのデザインを担当している。
 桃のコンポートの瓶詰めは新鮮な実を使っていることが一目で分かるよう、ラベルに透明シートを採用した。農家のこだわりを掲載したタグを付けた。ジャムも含め、ばらばらだった商品のパッケージを統一し阿部農縁のブランドだと一目で分かるようにした。
 寺山はこうした工夫の結果、売れ行きが良くなったと実感している。

 馬場は今年、新たな事業に乗り出す。月2000円で会員になり、好みの農家を選んで農産物を購入するウェブサービスだ。
 インターネットのホームページに複数の農家と毎月届ける野菜や果物、加工品の内容を掲載して、消費者に「マイ農家」を選択してもらう。ネットで情報交換し、農家側が進める6次化商品の開発にも参加する。会員は自らのアイデアが反映された加工品に愛着を抱くはずだ。発売後には自分で購入するだけでなく、友人や家族にも勧めてくれると期待できる。
 複数の農家が生産した同じ品種の桃を詰め合わせた食べ比べセット、月ごとに季節の農産品などが届く商品付きカレンダーの販売なども予定している。発想の数だけ事業が広がっていく。
 「風評被害を体験したからこそ、福島の農業は強くなれる」と信じている。愛車は軽トラックだ。生産者と消費者をつなぐ新たなモデルをつくりたい。大きな夢を荷台に乗せ、今日も県内農家を回る。(文中敬称略)