(13)住民同士の絆育む

南会津の子どもたちにスポーツを指導する向後(中央)

■南会津町ひのきスポーツクラブ 向後隼平さん 30 (上)

 「お父さん、お母さん、見てよ」。南会津町田島地域の西部にある桧沢地区。周りを雪に覆われた桧沢小体育館に黄色い歓声が響き渡る。
 NPO法人ひのきスポーツクラブが月2回開いている「スポーツ☆サンマ クラブ」と「チビアスクラブ」には毎回、幼児や児童ら約40人が集まって来る。平均台やマットを使って運動し体力向上を目指す。一緒に訪れる父母、祖父母は笑顔であいさつを交わす。
 指導するクラブマネジャーの向後隼平(こうご・じゅんぺい)(30)は「住む人が減り、にぎわいが失われつつある地域で、住民同士の懸け橋になりたい」と願っている。

 田島地域の荒海地区に生まれた。荒海中、田島高で陸上競技の短距離走者として活躍し、スポーツにのめり込んだ。
 高校卒業後、千葉県の成田空港で乗客サービスの仕事に就く。やりがいを感じたが、秘めた思いがあった。自分の居場所はここじゃない。スポーツで人を元気にしたい。平成24年4月、総合型地域スポーツクラブとして活動を続けていたひのきスポーツクラブの職員になった。
 子どもたちに指導するようになって間もなくだ。ボールの投げ方や走り方がぎこちないと気付く。自分の小学生時代に比べ、運動能力や体力の差が開いているとも感じた。「外で遊ぶ友達が近所にいない」「虫捕りって誰が教えてくれるの」。そんな声も聞こえてきた。
 人と人のつながりが薄れてしまっている。一体、何が原因なのか。大勢の仲間と一緒に、日が暮れるまで野山を駆け回った遠い日を思い出した。大人は優しく、時に厳しく遊び方や社会のルールを教えてくれた。古里の未来に不安を覚えた。

 田島地域の人口は昨年12月末現在、約1万1000人で、町村合併直前の18年3月から2000人ほど減少した。
 子どもや孫と離れて暮らす高齢者が増えている。近所と疎遠になり、家に閉じこもりがちになるケースもあるという。地域を支える農業の後継者は減り、これからの祭事の運営を心配する人もいた。
 自分の仕事はスポーツだけじゃない。地域の絆づくりだ。決心が固まった。(文中敬称略)


※総合型地域スポーツクラブ
 年齢、興味関心、技術技能などに応じて住民がスポーツに親しむ機会を提供し、地域づくりにつなげる組織。県内では86団体が県に登録されている。南会津町のひのきスポーツクラブは平成14年に設立された。世代間交流を進めるスポーツ大会と高齢者向けサロンの開催、子どもたちへの陸上競技指導など幅広い事業に取り組んでいる。