自慢の味古里で再び 双葉食堂店主 豊田英子さん 66 南相馬小高区

■「ラーメンで絆をつなぐ」
黄金色のスープに程よく絡む縮れ麺。「双葉食堂」の中華そばは古里の味だ。東京電力福島第一原発事故で店のある南相馬市小高区は警戒区域に。避難した新潟県で作ったラーメンが避難者を笑顔にした。
「ラーメンで絆をつなぎたい」。平成23年5月に南相馬市に戻り、鹿島区での営業再開を目指している。
【平成23年9月15日付・震災発生から半年特集】
「ここでやってるって聞いてさ」「この味、懐かしい」
今は南相馬市鹿島区にある仮設商店街の一角で仮店舗を出している。お客さんとの再会が何よりの元気のもと。うわさを頼りに店の場所を探してくれる人もいて、店を閉じずに続けてきて本当に良かった。店を再開する前は気分が沈む日も多かったが、今はともに笑い合える仲間がいる。
■「当たり前のことを懸命に」
毎日午前7時半から店でスープなどを仕込み、夕方に原町区の借り上げ住宅に帰る。食べたいと言ってくれる人のために精いっぱい腕を振るうことがこんなに楽しく、素晴らしいとあらためて気付いた。
味は義母(イク子さん)が創業して以来、大きく変えていない。いつもの味をいつも通りに作って食べてもらう。当たり前の日々がどんなに貴重で、尊いかを実感している。
■「元の日常を取り戻したい」
小高区で営業できなくなってから5年。ようやく戻れる見通しが開けてきた。南相馬市は4月の避難指示解除を目指している。一緒に戻りたい。戻って温かいラーメンで迎えたい。元の店は食堂「おだかのひるごはん」となっているが、3月に閉店する。5月にも「双葉食堂」として再開させたい。
不安もある。仮店舗でできたお客さんとのつながりはどうなるのか、かつての常連さんにまた小高に足を運んでもらえるだろうか...。悩みは尽きない。でも、やっぱり古里はいい。周囲に住んでいた人たちの多くも自宅に戻るという。小高でのれんを再び掲げることが、みんなの日常を取り戻す助けになれば。
今はただ、前を向いて歩いていきたい。
