「霞が関」の都合(3) 用地取得 長期化の様相 迅速さ欠く算定 加速策も効果不透明

「ここに庭木があるはずだ。子どもの入学記念で植えたんだから間違いない」。中間貯蔵施設の用地交渉に当たる環境省担当者(57)は昨年秋、地権者から指摘を受けた。
担当者は自宅の補償金の算定額を伝えるため避難先の地権者宅を訪れていた。後日、あらためて調べると、避難中に枯れたらしく、少しだけ幹が残っていた。最初の調査で見落としていた。計算を一からやり直した。
大熊町から会津若松市に避難する60代の女性も交渉で再計算が必要となった。当時の担当者の対応を思い出し憤る。「次に算定額を示すまでの3カ月間、ほとんど連絡をよこさなかった。寄り添う気持ちはあったのか」。担当者との意識のズレを感じた。
中間貯蔵施設の用地取得に伴う補償金の算定方法は一般的な公共事業と異なる。道路やダム工事では旧宅の庭木や庭石などの財産を新居に移設する。一方、中間貯蔵施設では帰還困難区域内のため財産を持ち出せない。庭木の1本から花壇のレンガ1個まで全て買い取る決まりだ。
その結果、算定作業は煩雑を極める。外部のコンサルタント業者にも委託して加速化を図るが、1件当たり3、4カ月もかかっている。再計算が必要となれば、算定額提示がさらに遅れる。担当者は「物件調査から契約まで1年かかるケースもあった」と打ち明ける。
環境省は算定作業の時間を短縮できないか検討を始めた。物件調査が本格化する中、作業が一部業者に集中しないよう発注の分散化を進める方針。ただ、業者数には限りがあり、思惑通りに効果が上がるかは不透明だ。今のところ抜本的な対策を打ち出せていない。
環境省は地権者2365人のうち、1月末までに約1220人を訪問し、建物など約810件の物件調査を終えた。その後に算定額を示し、契約に至ったのは44件にとどまる。依然、地権者約1000人の連絡先を把握できていない。
建設予定地は約16平方キロと広大だ。当面必要となる除染廃棄物の保管場整備にも、まとまった土地が必要となる。これまでに確保した用地は点在している。「このままで本格工事に入れるのか」。関係者は頭を抱えている。