(9)【第1部 コメを巡る事情】インタビュー 福島大 小山良太教授 ブランド形成に予算を

こやま・りょうた 東京都出身。北海道大大学院農学研究科博士課程修了。福島大経済経営学類准教授を経て2016(平成28)年から教授。地産地消や農林水産物の6次化に関する研究を続けている。43歳。
こやま・りょうた 東京都出身。北海道大大学院農学研究科博士課程修了。福島大経済経営学類准教授を経て2016(平成28)年から教授。地産地消や農林水産物の6次化に関する研究を続けている。43歳。

 東京電力福島第一原発事故による風評などで価格が下がった県産米。再び価値を高めるには、どのような取り組みが必要なのか。農業経済学を専門とする福島大経済経営学類の小山良太教授(43)は「県産米の新たなブランドイメージを創出するため、その費用を国に求めるべき」と指摘する。


 -県産米の価格は原発事故前の水準に戻っていない。産地名が伏せられて取引されている場合もある。

 「原発事故から六年半が過ぎた今、消費者が『福島産は危ない』とのうわさを信じて買い控えている実態はないと言ってもいいだろう。なぜ価格面に影響しているかと言えば、流通構造が変わったからだ。本県は全国上位の産地だった。原発事故で産地のランクが下がり、業務用が主体となった。業務用主体になったから価格が下落したとの見方もできる。どちらにせよ、長い年月と費用を要して形成されたブランドが一瞬で壊された」

 -安く買われるしわ寄せは農家に向いている。

 「その通りだが、業務用米で使われること自体、悪いことではない。問題は、農家が高い生産費をかけて家庭用米として売れる商品を作っているのに、業務用米として流通している点だ。差額が損害となっている。業務用主体で売られる流通構造になった以上、生産費を抑えなければ利益は見込めない。県内の水田全体で、例えば『家庭用二割、業務用六割、それ以外二割』などと面積比率を決めた上で生産すれば産地全体で生き残れる」

 -県産米の価値を高めるにはどうすべきか。

 「価値が低下した状態から回復するのは難しい。新しいブランドを創出した方が早い。コメの袋自体を全く新しいデザインに切り替えてしまう方法や、新品種をこれまでと違う流通ルートに乗せる方法もある」

 -全量全袋検査により、県産米は安全だとの認識が消費者に広がっているとの見方がある。

 「全量全袋検査などの放射性物質検査は、放射性物質が入っているかどうかを調べるネガティブ(悲観的)チェックだ。それは安全性の担保になる一方、ブランド価値が上がらない要素にもなり得る。今後はポジティブ(前向きな)チェックへの切り替えが大切だ。GAP(農業生産工程管理)などの認証を得る手法もある」

 -行政による風評対策をどう受け止めているか。

 「福島応援イベントのような類いの催しに、もはや風評対策としての効果はないと思う。少なくとも流通対策にはつながらない。今後は新規市場開拓のためのプロモーションに切り替えた方がいい。県は風評対策費ではなく、ブランド形成費を国に求めたらどうか」


=第1部「コメを巡る事情」は終わります