(11)【インタビュー】コピーライター 糸井重里さん(下) 福島応援団増やそう

「福島に触れる環境を整えて」と提案する糸井さん=東京・北青山の「ほぼ日」社内
「福島に触れる環境を整えて」と提案する糸井さん=東京・北青山の「ほぼ日」社内

 コピーライターの糸井重里さんは東京電力福島第一原発事故による県産農産物などに対する風評を払拭(ふっしょく)するには、県外の人たちが県内で農業を体験するなど「人の行き来が増える」環境を整えていけたらと語る。


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 -糸井さんは言葉を扱う仕事をしている。風評とは言葉によるうわさだ。それはなぜ生じ、現在も消えないのか。

 「風評があってもそこから遠い人には支障が無いからだと思う。困っている人がいるのを忘れても、自分の生活に影響はない。人を驚かせる言葉は真偽に関係なく相手の印象に残り、とげのように心に刺さる。それを一つずつ抜いていく作業は、刺す人がいる限り困難だ」

 -風評をなくすためにはどのような取り組みが求められるか。

 「応援団を増やすのが重要だ。無責任な言葉に対し『そんなことはないんだよ』と言う人がいて、『あの人が言うならそうだよね』という風に広がっていくのが望ましい」

 -応援団を増やす方策は。

 「例えば、アイドルグループがテレビ番組の企画でやっていたように、福島で広大な家庭菜園を造ったらどうか。国の資金で施設を整備し、首都圏などから訪れる人たちが農作物を育て、作ったものを食べる。実現できれば『安全か不安か』などの議論は吹き飛ぶのではないか。みんなが来て喜んでくれることで、おいしくて上手に作れたことや、福島の人々に親切にしてもらったことに関心が移る。夢物語に聞こえるかもしれないが、不可能ではないはずだ。風評はCM(コマーシャル)などの言葉一つで拭い去れるものではない」

 -県産品の販路を拡大するには、どのような工夫が必要か。

 「言葉はおまけでしかない。重要なのは『何をしたか』だ。こうありたいという理想に向けて一つずつアイデアを重ねていき、事業や産品の中身を磨くべきだ」



 いとい・しげさと 群馬県出身。株式会社「ほぼ日」代表取締役。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。広告、作詞、文筆、ゲームなど多彩な分野で活躍している。著書に「知ろうとすること。」(早野龍五氏との共著)、「ボールのようなことば。」など多数。68歳。