(12)【第2部 全量全袋検査】福島県 体制見直しに苦悩

全量全袋検査の見直しに向け議論を重ねる水田畑作課職員
全量全袋検査の見直しに向け議論を重ねる水田畑作課職員

 原発事故発生後、県産米に対する風評の防波堤ともなってきた全量全袋検査は開始から五年四カ月が過ぎ、分岐点に差し掛かった。福島のコメの安全を担保し、アピールするには何が必要か。生産者や流通業者は行政に何を求めているのか。見直しの現場を追う。(文中敬称略)


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 県庁五階にある県水田畑作課の執務室。農業職を中心に職員約二十人が勤務する。大きな案件の見直しを控え、普段にも増して緊張感が漂う。

 県による県産米の全量全袋検査。東京電力福島第一原発事故により避難区域が設定された十二市町村を除き、数年後にも検査範囲を縮小する方向が第三者の検討会でまとまり、県は年明けに素案を示す。しかし、関係者の悩みは尽きない。「福島のコメは安全だと、どうすれば誰もが納得してくれるだろうか」


 JAやコメの集荷業者、消費者団体の関係者でつくる検討会の討論が範囲縮小の方向となったのは、県内の生産者、県内外の消費者らを対象に実施した意向調査の結果を受けてだった。

 生産者は三百二十五人が回答した。「より効率的な検査に移行すべき」と「検査は必要ない」を合わせ五割を超えたが、「継続すべき」も四割に上った。

 消費者は二千七十人が答え、「段階的に縮小すべき」「別な方法にするべき」「すぐにやめるべき」の合計が四割に達した一方、「継続すべき」と「あと数年は継続すべき」の合計が五割を超えた。考えは割れている。

 見直しを求める声として、(1)全検体で放射性セシウム濃度が食品衛生法の基準値(一キロ当たり一〇〇ベクレル)を大幅に下回っている(2)検査が生産者や集荷業者らの負担となっている-が目立った。継続を望んだ回答者からは、(1)検査が県産米の安全の担保になっている(2)検査をしないと売れなくなると思う-の意見が寄せられた。


 県が進める検査体制見直しの素案作りでは「どの範囲まで縮小するのか」「いつ縮小するのか」の二点が焦点となる。

 生産者調査で縮小すべきと答えた人に望ましい検査方法を尋ねたところ、「市町村当たり数点の抽出検査」が39%、「生産者当たり数点の抽出検査」が32%と拮抗(きっこう)した。時期については「三~四年後」や「五~六年後」など、生産者や流通業者からさまざまな意見が届いているという。

 「継続を求める声にも十分、配慮する必要がある。一体、どうまとめるべきか」。県水田畑作課長の大波恒昭(55)は考えを巡らせている。



※全量全袋検査 東京電力福島第一原発事故が発生した翌年の2012(平成24)年から、全ての県産米を対象に行われている放射性物質検査。県や市町村、JAなどでつくる「ふくしまの恵み安全対策協議会」が主体となり、県内172の検査場で、主に30キロのコメ袋をベルトコンベヤー式の検査器に通して測定している。放射性セシウム濃度が食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超える検体は年々減り、2015年産以降は全てが基準値を下回っている。年間60億円弱の費用がかかり、毎年度、約50億円超を東電に請求し、残りは国費を充てている。