(14)【第2部 全量全袋検査】継続を また拒まれたら…

東京電力福島第一原発事故発生後、県内の農家や流通業者は風評によるコメの価格低迷に悩まされてきた。取引を拒まれ、大切な顧客を失ったままのケースも多い。
県は県産米の全量全袋検査の範囲縮小を検討している。「検査にかかわる労力を減らしてほしい」という要望が出ている一方、「風評がなくなるまで検査を継続してほしい」との声も根強い。
「販売面でマイナスになる可能性はあっても、プラスにはなり得ない」。会津坂下町でコメの集荷業を営む猪俣優樹(41)は、今後の検査体制について慎重に検討を重ねてほしいと県に求めている。
会津地方の農家から毎年、約二千トンのコメを集め、七割弱は県内外の卸売業者やスーパーに卸し、残りは宅配などで販売している。全量全袋検査が始まった二〇一二(平成二十四)年以降、検査により安全性が担保されていると粘り強く訴え、取引先の信頼を得てきた。
「検査、今年もやるんですよね」。新米が出回る秋口になると、取引先から尋ねられるという。業界内では、福島県産は検査をするのが当然という認識が広まっているのではないかと考えている。
コメは価格が敏感に動き、卸売業者や小売店が仕入れる際には他産地への切り替えも起きやすい。それだけに、検査範囲が縮小されれば安全性に対する不安が生じ、本県産は他県産との競争に負けてしまうのではないかと懸念している。
「一度、検査範囲を縮めれば後戻りできない。縮小するのであれば、風評が決して生まれない体制を整えてほしい」と訴える。
県は原発事故により避難区域が設定された双葉地方などの十二市町村については当面、全量全袋検査を維持する考えだ。これに対して広野町上北迫(かみきたば)のコメ農家横田和希(37)は、県内全域で現状の体制のまま検査を続けてほしいと願っている。十二市町村だけで継続されれば、この範囲内の農産物は安全なのかという不安が生じかねないと考えているためだ。
さらに、福島第一原発では今後、溶融燃料(燃料デブリ)取り出しなど廃炉作業が本格化する。何らかのトラブルが発生しても、現在の検査が続いていれば、県内全域で取れるコメの安全が保証されるとも指摘する。「さまざまな事態を想定し、対応を検討すべきだ」と語気を強めた。(文中敬称略)