(15)【第2部 全量全袋検査】GAP 「安全認証」に注目

 農家に負担を掛けず、県産米の安全を確実に保証できる方法はないか-。県は全量全袋検査に代わる新たな手法を模索しているが、風評払拭(ふっしょく)につながる答えは容易に見つからない。

 一方、関係者が注目する農産物の安全認証制度がある。食品の安全性や環境保全などに配慮して生産活動をしていると農家にお墨付きを与える「GAP」(ギャップ)だ。


 GAPには国際版「グローバルGAP」と国内版「J-GAP」がある。農家は生産工程を記録し、民間団体などによる審査を受けて認証を得る。取得数は全国的に増えており、二〇一六(平成二十八)年時点で国内版は約四千件に上る。

 県は今年五月、都道府県別のGAP取得数で日本一を目指す「ふくしま。GAPチャレンジ宣言」を発表した。十一月二十日現在の国際版、国内版を合わせた取得数は十七件。「東京五輪・パラリンピックが開かれる二〇二〇年度までに百四十件以上」を目標に掲げている。

 今年七月には、県が独自の「ふくしま県GAP(FGAP)」を創設した。認証に向けてコメ農家が取り組む項目は【表】の通りで、「食品安全」「環境保全」など国際版と国内版が求めている内容に「放射性物質対策」を柱として加えた。出荷前の自主検査による安全性の確認をはじめ、水田の放射線量管理、出荷前の放射性物質検査の実施などを求めている。

 県は普及に向けて、認証取得や更新に関わる費用を全額補助する制度を設けた。


 農林水産省生産局の担当者はGAPについて「農産物の安全性に対する信頼を高める有効な手段」と説明する。全量全袋検査の予算を査定する財務省主計局は「放射性物質検査とGAPは性質は異なるが、同じ方向を向いている」との見解を示す。県環境保全農業課は「県内でGAPの認証件数を増やし、風評払拭を加速させたい」としている。

 しかし、GAPが全量全袋検査に取って代わる存在になるには、大きな壁が立ちはだかっている。



■県GAPの取り組み例(コメの場合、抜粋)

(1)食品安全(23項目)

・ほ場や周辺環境、廃棄物、資材からの汚染防止

・無登録農薬、無登録農薬の疑いのある資材の使用禁止

・作業者の衛生管理

(2)環境保全(14項目)

・水田からの農薬流出防止対策

・農業生産活動に伴う廃棄物の適正な処理

・作物残渣(ざんさ)など有機物のリサイクル

(3)労働安全(13項目)

・機械、装置、器具の安全装備の確認、使用前点検、使用後の整備と適切な管理

・農薬、燃料の適切な管理

(4)農業生産工程管理全般(17項目)

・農薬の使用に関する内容の記録・保存

・生産・出荷に関する内容の記録・保存

・研修会への参加、情報の習得

(5)放射性物質対策(30項目)

・ほ場の放射線量と過去の玄米放射性セシウム検査結果の把握

・暫定許容値を超える肥料・土壌改良資材・培土の利用回避

・カリウムの適切な施用

・出荷前の自主検査による安全性の確認


※GAP 農業生産工程管理を意味する英語で、Good Agricultural Practice(グッド・アグリカルチュラル・プラクティス=良い農業の実践)の略称。農家が食品の安全性や環境保全、労働安全などに配慮して営農していることを民間団体や都道府県が認証する。国際版のグローバルGAPはグローバルGAP協議会、国内版のJ-GAPは日本GAP協会と契約した民間会社や団体が認証者となる。農家は生産のさまざまな工程を詳細に記録し、審査に合格すると認証を得られる。審査費や研修費などで100万円以上かかる場合がある。