(11)【第2部 産業づくり】三島町早戸地区(上)古民家に本社移転

三島町の古民家に本社を置く「toor」でソフトウエア開発に取り組む高枝社長。「多様な移住スタイルを実践したい」と語る
三島町の古民家に本社を置く「toor」でソフトウエア開発に取り組む高枝社長。「多様な移住スタイルを実践したい」と語る
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 少子高齢化や人口減少などを乗り越え、地域創生を実現するには生活の糧となる産業の活性化が不可欠だ。第二部は、地域に根を下ろして新たな事業を起こす人や本県の基幹産業である農業の再生に挑む人の姿を見つめ、福島で生きる意味を問い直す。



 奥会津の三島町。只見川のゆったりとした流れと新緑の深い山々が美しい景観をつくる。町中心部から車で約十分、早戸地区に立つ築百年の古民家に、情報サービスのベンチャー企業「toor(トア)」の本社がある。四月中旬、自宅を兼ねる本社で社長の高枝(たかえだ)佳男(51)はソフトウエア開発に没頭していた。

 二〇一三(平成二十五)年に東京から移住した。町勤務は高枝のみ。県外にいる六人の社員とはインターネットを活用したウェブ会議システムで連絡を取り合う。「ネット環境があれば、地方の中山間地域でも東京にいる時と同じ仕事ができる。仕事を通じて地域の課題解決に貢献する移住スタイルを実践したい」


 高枝は大阪市出身。京都大大学院工学研究科博士課程修了後の一九九五年、都内の石油化学メーカーに就職した。シンクタンク勤務を経て二〇一二年、ビッグデータ活用に取り組むtoorを都内で創業した。

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生後の二〇一三年四月、商談相手から「福島の三島町にいる知人が地域活性化のため古民家再生に取り組んでいる。入居者を探しているがどうか」と誘われた。福島と聞き、地元関西を襲った一九九五年の阪神大震災の記憶がよみがえった。当時は大学院で論文の執筆に追われ、被災地の復旧・復興に貢献できなかったことに忸怩(じくじ)たる思いがあった。「今度は何か地域の役に立てるかもしれない」との思いが膨らんだ。


 二〇一三年五月に初めて三島町を訪れた。都会での生活に疲れていたこともあり、豊かな自然に心地良さを感じた。しかし、慣れない土地での生活や仕事への不安があった。

 自ら改修した古民家を案内する地元の建設会社社長佐久間源一郎(67)から声を掛けられた。「都会のように忙しく生きる必要はない。この静かな環境ならソフトウエア開発の仕事に集中できる。移住してくれれば、顧客や社員などの交流人口も増え地域が元気になる」

 佐久間の言葉で気持ちは固まった。「自分にもできることがある。移り住もう」(文中敬称略)