(10)【第1部 中山間地で】高知県嶺北地域(下)移住呼ぶ、つながり


「心配事があれば何でも聞いてね」。昨年十二月十四日、高知県土佐町の集落で、NPO法人れいほく田舎暮らしネットワークの鳥山百合子(41)は、移住準備のため町内を訪れた小林優子(34)に声を掛けた。鳥山は小林にごみの出し方など地域の決まり事を細かく説明し、自治会長ら近所の住民に紹介した。
四国地方中央の高知県嶺北地域にある土佐町は人口約四千人。農業や林業が盛んで、美しい棚田から取れるコメがおいしいと評判だ。自然に囲まれた生活に魅力を感じ、人とのつながりを通じて都会から移り住む人が多い。移住希望者には“先輩”の移住者が親身になって相談に乗り、不安を和らげている。
鳥山は二〇一一(平成二十三)年八月、家族と共に神奈川県から土佐町へ移り住んだ。土佐町のことは移住者が発信するネット情報で知った。「物を大量に消費する都会の生活に疑問を感じ、『土に近い生活』がしたくなった」と明かし、「人が温かく、住民同士で支え合う意識が強い」と田舎暮らしの魅力を語る。移住するかどうか迷っていた時、町内の女性が相談に乗ってくれた。おかげで不安が薄れた。こうした体験を生かしたいと、移住希望者を手助けする、れいほく田舎暮らしネットワークに加わった。
小林も神奈川県出身。都内の設計事務所に勤務していた時、仕事で訪れた高知市に魅力を感じ、二〇一六年、同市に移住した。昨年三月に本山町に移り、鳥山への相談後、十二月には猫と暮らせる環境を求めて土佐町へ引っ越した。「集落の様子を詳しく教えてもらい、安心できた」と鳥山に感謝する。
れいほく田舎暮らしネットワークは二〇〇七年に町への移住者で結成し、二〇一四年にNPO法人となった。移住を考えている人の要望を聞き、集落や住居を紹介している。地域の行事や近所付き合いの雰囲気なども伝え、住民の中に溶け込めるよう後押している。「福島の中山間地でも外から来る人と住民との絆づくりを大事にすれば、活性化につながる」。ネットワーク事務局長の川村幸司(41)はそう断言した。(文中敬称略)
=第1部・おわり=