(9)【第1部 中山間地で】高知県嶺北地域(上)若者が地域に新風


「都市部での時間に追われる生活を離れ、自分は何がやりたいのか考えたかった。心と時間とお金に余裕が生まれた」。兵庫県出身で二〇一六(平成二十八)年に高知県大豊町に移住した林利生太(りゅうた)=(22)=は田舎暮らしの魅力を語る。NPO法人「ONEれいほく」事務局長を務め、田舎暮らしを体験する若者向けシェアハウスなどを運営している。
高知県の大豊町、本山町、土佐町、大川村からなる嶺北地域は四国地方中央に位置する。自然に囲まれた生活を求めて移住する人が増え、二〇一二年度から五年余りで地域全体の移住者は三十~四十代を中心に四百八十九人に上る。移住者は田舎暮らしの様子をSNS(会員制交流サイト)などで発信し、さらに移住希望者を呼び込んでいる。
「ONEれいほく」は嶺北地域への移住者が二〇一六年に設立し、嶺北地域内四カ所でシェアハウスなどを営む。田舎暮らし体験や長期滞在を希望する十代後半~二十代前半の若者を家賃無料で受け入れている。「田舎暮らしに興味がある。試しに住んでみたい」「静かな環境で生き方を見つめ直したい」という動機で来る人が多い。希望者には、コメや特産のユズの収穫体験、地元猟師の協力でイノシシなどの狩猟体験を企画している。
これまでに年間約四百人がシェアハウスを利用し、約二十人が県内に移り住んだ。林も農業体験をきっかけに移住し、NPOの活動に共感して事務局長となった。現在は事務局長の給与とネット上の広告収入で生計を立てている。
移住者は地域で農業や介護職に就いているほか、資格を持っている人の中には自営で仕事を始める人も多く、地域に新風を吹き込んでいる。移住者は地域の行事に参加するなど住民と積極的に交流している。「この地域は都会に比べ生活費が安いという良さがある。滞在者や移住者を増やして若者と地元の高齢者との交流を生み出し、地域活性化につなげたい」。林の目は地域の未来を見据えている。(文中敬称略)