(1)【第1部 宝を生かす】今井隆子さん(上) 人口減の町で活路 ゲストハウスを開設

東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から三月で十年目に入る。福島県は復興の歩みを続ける。少子高齢化や人口減少が進む中、県内では地域の「宝」を生かし、活路を見いだそうとする動きが生まれている。地域活性化に情熱を注ぐ人々の姿を追い、古里創生の在り方を問い直す。(文中敬称略)
「こんな美しい景色は見たことがない。心が洗われるよう」。昨年暮れ、三島町早戸地区のゲストハウス「一棟貸ヴィレッヂ」に宿泊したオーストラリア在住の日本人女性が感嘆の声を上げた。
ゲストハウスからは、只見川の絶景が望める。気象条件によって早朝、幻想的な川霧が水面を覆う「霧幻峡(むげんきょう)」が見下ろせる。
米国の大手企業の役員などを務め、三島町に移住した今井隆子(55)=福島市出身=がゲストハウスを営む。訪れた人に奥会津の魅力を説く。「都会での生活や仕事に疲れた人が、体と心を癒やす場にしてほしい」とほほ笑んだ。
今井を魅了するのは奥会津の豊かな自然や温かな人柄だ。
二〇一七(平成二十九)年五月に三島町に移り住んだ。県の奥会津地域おこし協力隊員となり、国内外の観光キャラバンに参加した。海外生活で培った知識や経験、語学力を生かし、現地の人に奥会津の自然や食の豊かさ、JR只見線の魅力を直接伝える。写真共有アプリ「インスタグラム」でも発信した。
奥会津に足を運ぶ人が少しずつ増え、四季折々の景観に感激する。来訪者から「滞在できる場が増えてほしい」との声が寄せられるようになった。国内外から来た人が、落ち着いた雰囲気の中で奥会津の風土に触れる場所をつくりたい-。二〇一九(令和元)年五月にゲストハウスの運営会社をつくった。
協力隊員を辞め、同年八月、三島町内に二棟のゲストハウスをオープンする。只見川の川辺に「かわべり棟」、町内早戸の「本村」と呼ばれる集落に「ほんそん棟」を設けた。いずれも一棟貸し切りの素泊まり宿で、別荘のようにゆったりと過ごせる。都会からゲストハウスに来た人は、ここにしかない眺めや静けさに浸る。
三島町の二〇一八年十月現在の人口は千五百人余り。二〇〇九年からの人口減少率は23%と県全体(8・8%)の約三倍に上る。人口に占める六十五歳以上の割合を示す高齢化率は53・04%で県内市町村で三番目に高い。都市部から見れば、町は衰退の一途をたどっているように映るかもしれない。しかし、今井はこの地にしかない「宝」を生かせば、活路は開けると考える。二十六年の海外生活から古里に戻ってみて気付いた。