戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第2部・林業(11) 原木出荷途絶える シイタケ用伐期逃す

2022/01/07 09:45

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 田村市都路地区の山林には、シイタケ栽培に適さない原木が積み上がる。都路地区がある阿武隈山地は東京電力福島第一原発事故発生前、国内有数の原木の産地だった。原発事故による放射性物質の影響で、事故から間もなく十年十カ月になる現在も原木の出荷は止まったままだ。

 県によると、県内のシイタケ栽培用の原木は二〇一〇(平成二十二)年には約四百八十万本が生産されていた。このうち約二百七十万本は県外に出荷されていた。都路地区で取り扱っていた原木数は【グラフ】の通り。原発事故発生前の二〇一〇年は約十三万八千本で、最盛期には九十万本を超えていたという。

 森の恵みに支えられていた人々の生活は、原発事故で一変した。ふくしま中央森林組合都路事業所によると、二〇一二年には原木一キロ当たり約二五〇~二八〇〇ベクレルの放射性物質が検出された。十年が過ぎた現在も一三〇~二〇〇ベクレルと、国が定めた原木として使用できる指標値五○ベクレルを上回り、出荷できない状況が続いている。

 原発事故発生前、都路地区では臨時作業員を含め六十人程度が原木生産に関わっていたが、現在は半減した。出荷できないことで、原木として使用されていたコナラやクヌギなどの伐採が滞っている。使用に適した伐期を過ぎた木は、紙などの原料として出荷されているが、原発事故発生前に原木として出荷されていた量の三割程度だ。

 田村市都路町の農業小泉柳二さん(82)は原発事故発生前、原木生産に携わっていた。原木を出荷する同市の業者の依頼を受け、五十歳ごろから伐採の仕事を始めた。十二月から二月ごろまで山に入り、直径十~十五センチに育った木を九十センチ程度の長さに切り分けていた。都路地区の原木は木質が柔らかく、栽培に適していると評判だった。

 原発事故で原木から放射性物質が検出され、伐採の仕事はなくなった。「山で仕事をしていた多くの人が打撃を受けた。山林が元の状態に戻る頃には、林業に携わる人はいなくなってしまうかもしれない」。悔しさと諦めが入り交じる。

 原木の出荷停止は、樹木の再生を促す森林の循環にも影響を与えている。