
今春から特定復興再生拠点区域(復興拠点)をはじめとする帰還困難区域の避難指示解除が本格的に始まる。復興拠点外の対応も決まり、県内の林業関係者らは手つかずだった区域内の森林再生に向けた国の議論の行方を注視している。ただ、高い放射線量などが障壁になる上、除染範囲も不透明で、専門家は新たな技術開発や法整備の必要性を指摘する。
政府は二〇二一(令和三)年三月の改定福島復興再生基本方針で、里山再生事業について「復興拠点整備の進捗(しんちょく)などに応じて帰還困難区域での実施も視野に入れて検討を進める」と明記した。同年八月の政府の復興拠点外の対応方針では帰還を希望する住民らのための除染範囲について、自治体と協議を進めるとした。
この方針は林業関係者の希望になっているが、国の対応は不透明なままだ。帰還困難区域の里山再生の方針が打ち出されて間もなく一年。具体的な動きは見えず、県内から対応の遅れを指摘する声も上がる。住民が生活する環境整備について、国の説明は「地元の意向を踏まえる」との表現にとどまり、森林再生が奥山を含めてどの程度まで対象となるかも見通せない。
復興拠点外の高い放射線量の低減に向けては、環境省は「復興拠点の除染などの知見を生かせる」と新たな技術実証などの必要性には言及しておらず、事業化なども見込んでいないという。
福島大共生システム理工学類の川崎興太教授は「奥山再生に手を出しやすい、環境回復のための長期的な仕組みをつくらなければならない」と話す。現行の放射性物質汚染対処特措法が除染の目的を被ばく防護のみに定めており、健康リスクに関係がなければ範囲の拡大や技術開発などにつながらないと指摘する。「特措法に基づく森林対策は市町村の要求と一致していない。新しい法律をつくるべきだ」と訴える。
予算や手続きの関係で限られた範囲でしか森林や里山の再生が進んでいない一方、帰還困難区域を抱える全町村が森林除染を課題に挙げている現状がある。「国は地元自治体や住民と協議して環境回復に向けた除染や森林再生を長期にわたって進める責任がある」と提言し、これまでの除染の実績も検証するよう求めている。
課題が多い里山再生事業だが、メニューの一つの森林整備を活用して地域の交流促進を図りたいと考える住民もいる。