

五十九世帯が暮らす会津美里町の吹上台住宅団地。団地の北東には森が広がる。この森は里山再生事業の森林整備で生まれ変わった。間伐の結果、日の光が差し込み、道が整備されて出入りしやすくなった。「住民みんなで花や木を植えたい」。吹上台自治区長の桑原勇健さん(75)は雪解けした春以降、森を住民の憩いの場にしたいとの思いを抱いている。
二〇二〇(令和二)年九月、団地周辺の約一・四ヘクタールが里山再生事業の対象に選ばれた。東京電力福島第一原発から百キロ以上離れている町の空間放射線量は、県内の市町村でも比較的低い。町は住民の放射線への不安を完全に取り除くため手を挙げた。
住宅や里山との間を隔てる道路の除染は二〇一二(平成二十四)年に終了した。放射線量は、国が除染の長期目標とする年間追加被ばく線量一ミリシーベルトを空間放射線量に換算した毎時〇・二三マイクロシーベルトを下回っている。国と協議した結果、除染は必要ないと判断した。
住民が希望する森林整備の内容をアンケートで調査した。現地説明会を経て、町から受注した会津若松地方森林組合が二〇二一年九月に作業を始めた。ナラ、クヌギの細い木や生育の悪い木を間伐し、幅約二・五メートルの作業道を整備した。町の担当者は「見通しが良くなり、野生動物の存在に気付きやすくなった」と効果を語る。
団地の七十八区画のうち六十五区画が分譲されている。桑原さんは隣の会津坂下町から移り住んで二十年以上になる。原発事故発生後も、キノコの原木を置いたり、ランや山野草を眺めたりするため森に入っている。自主的に小枝拾いや草刈りに励み、可能な限りの環境保全に取り組んできた。
団地には幅広い世代が暮らすが、近所付き合いは少ない。桑原さんは森の再生が住民の交流促進につながると考える。「根深いクズの根を一緒に刈り取りたい。光が差し込むようになって花も木も育つだろう」と夢を描く。
森林の除染は進まないが、里山の環境回復を図る取り組みは続く。住民は、森が原発事故発生前のように、自由に出入りでき、交流できる場所になるよう望んでいる。(第3部「除染」は終わります)