
東京電力福島第一原発事故の避難指示が解除された地域では、住民の帰還が進み、民家や田畑を荒らす鳥獣への対策は不可欠な状況だ。地元猟友会のメンバーらでつくる捕獲隊が鳥獣駆除に当たっている。
3月上旬の早朝、大熊町西部の山あいで、県猟友会富岡支部大熊部会所属の愛沢郁夫さん(76)は軽トラックの運転席から動物の痕跡がないか目を光らせていた。「ここもひどくやられている」。知人宅の庭がイノシシに掘り返されているのを見つけた。
愛沢さんは双葉町出身で、原発事故発生時は大熊町に住んでいた。避難先のいわき市から週2回程度、町有害鳥獣捕獲隊の一員として町を訪れる。捕獲隊は事故前からあったが、全町避難で活動が途切れた。2019(平成31)年4月、町内の一部で避難指示が解除され、2020(令和2)年度に活動を再開し、11人が所属している。拠点は愛沢さんの自宅跡の倉庫だ。
この日、愛沢さんの他に避難先の大玉村から通う小野田秀久隊長(67)ら4人が集合した。約30カ所に仕掛けたわなの見回りを始めた。わなは森の中の動物の通り道や里山周辺の出没が予想される場所などに設置する。段差の先など動物が足をかける場所に仕掛けるのがポイントだ。
ワイヤで作った輪で鳥獣の足を捉える「くくりわな」を使う。動物が板を踏み抜くとワイヤが締まる。おりに閉じ込める箱わなと違い、狩猟者が動物と直接向き合うため事故のリスクが高く、斜面がある森や山での作業は危険が伴う。ただ、小型で持ち運びやすく、土に埋めて仕掛けるため警戒心が強いイノシシにも有効とされ、効率的に捕獲できるという。愛沢さんは「捕獲隊として町の人が安心して住めるようにしたい」と語る。
捕獲隊のメンバーがこの2年間で捕まえたイノシシの数は100頭を超える。町産業課の担当者は「動物の習性に詳しく、土地勘もある地元の狩猟者が捕獲を手掛けるメリットは大きい」と話す。
だが、隊員の多くは町外の避難先から通っており、高齢化も進んでいる。