
2月下旬、大熊町でわなを仕掛けた場所を見回っていた町有害鳥獣捕獲隊の元にアライグマが捕獲されたという情報が入った。町西部の山裾にある民家裏に向かうと、体長約60センチの成獣を見つけた。東京電力福島第一原発事故発生前はほとんど見掛けなかったが、住民が避難した地域で急増したという。
作業を終え、捕獲隊の拠点になっている愛沢郁夫さん(76)宅の倉庫に戻ってきた小野田秀久隊長(67)は、町に提出する書類を作りながら「地道な仕事の連続だ」と話す。捕獲隊が積極的に里山周辺にわなを仕掛けて「狩猟圧」を高めることで、人の側に下がってきた動物の生活圏を山に押し上げられる。捕獲隊最年少で町在住の佐藤信康さん(42)は「一番の目的は捕獲ではない。原発事故で乱れた人と動物のすみかに境界線を引き直さなければならない」と話す。
捕獲隊には町から日当が出ており、古里の山を歩き回る楽しさはある。だが、山の恵みに感謝する機会がなくなった。かつては捕獲したイノシシを食べていたが、放射性物質の影響で自家消費の自粛が求められている。活動の負担も大きい。隊員のほとんどが高齢者で、体力的につらいとこぼす人もいる。
さらに避難先と地元を行き来するのにも時間がかかる。11人の隊員の中で町内に住んでいるのは3人。残りの8人は、いわき市や大玉村などから数時間かけて通っている。
全町避難が続いている双葉町の状況はより深刻だ。2021(令和3)年度の捕獲隊員は4人。平均年齢は76歳で、避難先の茨城県から通っている隊員もいる。
町は今年6月の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除を目指している。これまでは土地勘があり経験豊富な隊員が限られた地域で駆除に当たってきた。避難指示解除により捕獲事業のエリアが広がれば、4人だけでは対処できない。このため、町は2022年度、捕獲隊を組織せず、民間事業者に捕獲事業を委託する見通しだ。
捕獲隊が活動する避難指示解除地域と異なり、人が自由に出入りできない帰還困難区域内の対策はさらに難しい状況にある。狩猟などが行えないため、環境省が直轄で捕獲事業を手掛けている。