戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第4部 鳥獣被害(29) 生息域拡大の恐れ イノシシ被害半数超

2022/04/19 10:50

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 東京電力福島第一原発事故に伴う避難区域から、野生動物が生息域を広げている恐れがある。県や市町村は警戒感を強めている。

 県によると、県内の野生鳥獣による農作物被害額は、2020(令和2)年度が1億9839万円で、イノシシによる被害が全体の半数以上を占める。県内のイノシシの捕獲数の推移は【グラフ】の通り。

 イノシシは中通りと浜通りにまたがる阿武隈山地を中心に生息しているが、近年は会津地方にも生息域が広がっているとみられる。会津地方では2020年度、10年前の約45倍に相当する2908頭が捕らえられた。現在の県イノシシ管理計画に基づく県内全域の推定生息数は5万4000~6万2000頭とされる。捕獲数の上昇に伴い、2018(平成30)年度までの管理計画より7000~1万3000頭分引き上げられた。

 一般的にイノシシは年間4、5頭を出産し、行動範囲は数キロ程度とされる。なぜ県全域で急激に分布が広がったのか-。県自然保護課の担当者は、捕獲数と生息数には相関関係があるとみているが「現時点で原発事故との関連性は明確に裏付けられていない」とする。

 三春町の県環境創造センターは今年2月、野生イノシシの遺伝子構造を解析した論文を公表した。国立環境研究所と東京農大との共同で、県中央部を流れる阿武隈川を主な境にして、東西で二つの遺伝子系統のイノシシが生息すると示した。その上で、東西間の交流よりも、東西それぞれの集団内での遺伝子交流が大きいことを明らかにし「東西では往来が少ない」との予測をまとめた。一方、かつて「姿を消した」とされてきた北東北地方にまで生息域の拡大が確認されており、西日本から北上したとの見方もある。

 動向の変化はイノシシだけではない。東京農大地域環境科学部の山崎晃司教授(60)は2019年12月から、南相馬市小高区の阿武隈山地付近から太平洋沿岸部にかけて15台のカメラを設置し、生態調査を続けている。その結果、阿武隈山地をすみかとしていたとみられる森林性の野生動物が東側の6号国道を越えて沿岸部にまで進出しているという。山崎教授は「人の活動が低下したエリアほど、こうした傾向が強くなる」と指摘した。

 原発事故発生後、国内の大学が被災地の鳥獣対策に取り組むようになった。先端技術を取り入れて研究を活発化させている。