

東京電力福島第一原発事故発生後、国内の大学が被災地の鳥獣対策に取り組むようになった。浜通りで失われた産業基盤の回復を目指す「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」が福島復興再生特措法で国家プロジェクトに位置付けられると、国の予算措置を背景に各大学は先進技術を取り入れて研究を活発化させている。
原発事故発生後、一時全村避難した葛尾村では、日大工学部の中村和樹准教授(48)らが郡山市のアルサの協力で、2018(平成30)年度から小型無人機「ドローン」によるイノシシの生態調査を行っている。
調査の舞台は村の北東部にある牧草地。ドローンを飛ばして上空から付近の森や山、平地などを撮影し、地形や植生を把握する。夜間は熱赤外カメラで地表の状況を監視する。夜は動物の体温が周囲より高くなるため、カメラで撮影すると白い点として映る。記録されたイノシシの位置情報と地形の情報を組み合わせると、出没しやすいエリアが分かる。
このデータに基づき、イノシシが身を隠しそうな場所の草を刈り取ったところ、周辺に設置した複数の定点カメラにイノシシが映らなくなったという。
中村准教授は「各地で過疎化が進んで担い手不足が指摘される中、先進技術を使うことで少ない労力で効果的な対策が取れるようになる」と話す。また、生態系維持の観点からも「駆除するだけでなく、人間と野生動物がうまく共生できるかを見極めるのにも、こうした技術やデータの蓄積が役立つ」と指摘する。
この他、東京農工大が富岡町でイノシシの無人追い払い装置の効果を検証したり、福島大が飯舘村で電気柵などの有効性を調べたりしている。
各大学が研究と対策に取り組んでいるが、市町村の管轄を超えた連携や研究成果の共有は十分に図られていなかった。こうした状況を改善するため、鳥獣被害対策ネットワークが設立された。