戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第4部 鳥獣被害(33) 進まない食材利用 「食べて供養したい」

2022/04/23 11:00

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雪解けした田畑の脇で、わなの手入れをする芳賀さん
雪解けした田畑の脇で、わなの手入れをする芳賀さん

 県内で捕獲された野生動物は埋設や焼却などで処分されている。東京電力福島第一原発事故の影響で、食材としての資源利用は進んでいない。

 農林水産省は全国的な鳥獣被害対策の一環で捕獲の他に、ジビエ(野生鳥獣肉)利用の推進を目的とした交付金メニューを設けている。だが、原発事故発生後、県内で利用された実績はない。国が県内で捕獲された野生鳥獣の多くを出荷制限しているためで、県も自家消費を控えるよう呼びかけている。

 県が4月13日に公表した県内で捕獲した野生鳥獣の放射性物質の測定データによると、イノシシ6頭とニホンジカ15頭のうち、桑折町で捕らえられたイノシシ1頭から、食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超える放射性セシウムが確認された。検査個体にもよるが、放射性物質の数値はこれまでおおむね微減、もしくは横ばいで推移している。イノシシは雑食で木の根を食べる際、土ごと口に入れる。放射性物質を吸着しやすいキノコなども餌とするため、体内に放射性物質が取り込まれやすいという。

 「できることなら食べて供養したかった」。会津若松市で農業を営む芳賀広一さん(70)は、捕獲したイノシシを埋葬した山林で手を合わせる。わな猟で市の有害鳥獣駆除に携わる。市内各地に30個を仕掛け、積雪のない春から秋にかけて各ポイントを見回っている。捕獲した動物は共有地に150センチほどの深さの穴を重機で掘って埋葬している。

 原発事故発生後、イノシシによる農作物への被害が増えたと感じている。稲を食べたりする被害に悩まされてきた。2017(平成29)年にわなの狩猟免許を取得した。2019年度が最も忙しく、約15頭を捕獲した。「動物の数を減らすために捕るだけ。ずっとこのままでいいのだろうか」

 原発事故から11年以上が経過し、県内の山林の空間放射線量は自然減衰しているが、放射性物質のセシウム137の半減期は約30年とされる。隣県で野生動物の被ばく状況を研究する東京農大地域環境科学部の山崎晃司教授(60)は「地形や降雨などの気象条件、土壌の性質によって山林には放射性物質の濃淡が混在する。その影響は広範囲にわたっている」と指摘し、今後数十年間は野生動物への影響が続くと推測している。

 野生動物との付き合いは避けては通れない。住民と行政が連携し、専門家の助言を受けながら共生の道を探り続けることが求められる。