
川俣町でタラノメを生産している黒江績(いさお)さん(57)は東京電力福島第一原発事故発生後、風評による県産農産物の価格低迷に頭を悩ませてきた。
黒江さんが副部会長を務めるJAふくしま未来福島地区山菜専門部会は会員の高齢化に加え、減収が追い打ちとなり、廃業者が相次ぐ。「このままでは産地消滅は時間の問題」と危機感を募らせる。
タラノメが収穫できるタラノキは山の斜面いっぱいに広がっていた。山に自生するタラノキもあり、かつては野生のタラノメも出荷できた。会員は最盛期の1995(平成7)年、川俣町や福島市飯野町を中心に169人いた。高齢化などで徐々に減っていったが、原発事故発生当時は73人が営農を続けていた。しかし、原発事故発生後の2012年には59人にまで減少した。
同年、食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)は超えないものの、一部地域のタラノメから比較的高い値の放射性セシウムが検出された。部会は安全性と産地を守るため、自主的に出荷自粛を決断した。
原発事故発生前は単価(1パック50グラム)は300円を超えたこともあった。2013年に出荷を再開したが、それまで140円台の単価が続いたことで、多くの会員が廃業を余儀なくされた。2021(令和3)年には、14人まで落ち込んだ。このうち、実際に出荷しているのは数人にとどまるのが実情だという。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大による外食需要の低迷、大規模な霜被害などが重なった。福島地区山菜専門部会の菅野定吉次期部会長(川俣町)は「安全性を発信し、味の良い県産タラノメを地道に出荷し続け風評を払拭していくしかない」と苦しい胸の内を語る。
JAふくしま未来は農業用ハウスの新増設など施設整備に対する補助金を支給している他、他の作物よりも収益性の高いタラノメの利点を説明し生産拡大を目指している。ただ、芽が枯れやすいなど栽培が難しい点もあり、新規参入に二の足を踏む生産者も多いという。担当者は「産地を維持していくため、生産と販売の両面から支援を続けていきたい」と話す。
野生キノコや山菜の出荷制限は農業だけでなく、産業や観光、暮らしなど多方面に影響を及ぼしている。