戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第5部 山の恵み(40) 基準他国より厳格 合理性の検証求める

2022/05/10 11:30

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 食品中の放射性セシウム濃度の基準値は食品衛生法で1キロ当たり100ベクレルに設定されている。政府は2011(平成23)年3月の東京電力福島第一原発事故発生直後に暫定基準値(1キロ当たり500ベクレル)を設け、2012年4月から現在の基準値を適用している。その後、この基準値は10年が経過した今も変わっていない。

 現在の基準値は、食品の国際規格を策定する政府間組織コーデックス委員会の指標「年間線量1ミリシーベルト」を踏まえて定められた。だが、コーデックス委が示すガイドラインとは異なる仮定条件を用いたために欧米諸国と比較して厳しい基準値が設定された。

 コーデックス委、日本、欧州連合(EU)、米国の食品の基準値は【表】の通り。一般食品の放射性セシウム濃度の1キロ当たりの基準値はEUが1250ベクレル、米国が1200ベクレルで、日本はこれらの12倍以上も厳しい値だ。

 最も大きな違いは、規制値相当の放射性物質を含む食品の割合を示す占有率の考え方だ。コーデックス委の10%に対し、日本は5倍の50%。国産食品は全て汚染されているとして食料自給率を50%と見込み、流通食品の半分が汚染されていると仮定した。

 計算式に使用する平均食品摂取量も他よりも多い。コーデックス委は成人の食品摂取量の平均に当たる年間550キロを使っているが、日本は最も摂取量が多い13~18歳男性の年間748・8キロを使用した。この結果、許容できる放射性セシウム濃度がより低く導き出された。最終的に算出された数値1キロ当たり120ベクレルを100ベクレルに切り下げて基準値としている。

 基準値の存り方を巡り、自民党東日本大震災復興加速化本部の検討チームは昨年3月、政府に1つの提言をした。基準値を設定する際の仮定条件や数値自体の妥当性・合理性の検証を求める内容だ。

 原発事故発生後、厳格な基準で消費者の安心が確保された一方、一部の野生キノコや山菜、原木などの出荷制限は続き、県民から山のなりわいの再生を阻害しているとの声も出ている。こうした状況を受け、検討チーム座長の根本匠衆院議員(本県2区)は「基準値が科学的に合理的かを問い直す必要がある。特に占有率だ。山菜などは摂取量が少ない。過剰な規制で里山の復興を妨げてはならない」と意義を強調する。

 自民党の提言を受け、厚生労働省は基準値の妥当性などに関する検証を省内で進めているが、具体的な動きは見えない。担当者は「いまだに放射性物質への不安を持つ国民がいる中で、現時点で基準値の見直しは考えていない」と明かす。

 原発事故発生から11年で蓄積されたデータを生かし、基準値の運用を実情に即して見直すべきとする専門家もいる。