
飯舘村比曽地区の葉山山頂にある羽山神社では、地区に伝わる民俗芸能「比曽の三匹獅子」がかつて奉納されていた。山の恵みに感謝する獅子舞は東京電力福島第一原発事故発生後、この場所で披露されていない。
獅子をかたどったかぶりものを着けた踊り手3人と、竹で作った祭具を持った「ささらすり」が、笛と太鼓の演奏に合わせて勇壮に舞う。合わせて6人で演じる。山から下りてきたシシを神の化身と考え、田畑を荒らさないようにしてほしいと祈ったのが起源とされる。
宮司の多田宏さん(75)によると、三匹獅子は五穀豊穣(ほうじょう)や悪霊退散の祈りを込め、江戸時代ごろから、住民の手で受け継がれてきたという。関東以北に広く伝わる獅子舞の一種として親しまれ、村指定無形民俗文化財となっている。
住民でつくる比曽芸能保存会が継承し、田植え前の旧暦4月8日に神社に奉納してきた。原発事故発生前は数年に一度のペースで披露してきた。かつては山頂まで行っていたが、役員ら数人だけで神社まで上り、ご神体の木札を麓に下ろし、集落内で奉納する形を取っていたという。今は急傾斜の参道は手入れされておらず、神社に行くことができないため本来の形で奉納ができずにいる。
それでも、福島市などに避難している30代から50代までの会員ら10人が、原発事故発生後も村外のイベントなどで舞を披露し、伝統をつないでいる。
保存会員で、笛の吹き手を務める須藤一さん(57)は「次の世代の後継者をどうするかが課題。どこまで続けられるか」と不安を口にする。
昨年、伝統を絶やさないため、村内の別の神社に奉納する様子を撮影して記録した。須藤さんは「ゆくゆくは住民の信仰を集める羽山神社の森に戻って奉納したい。しかし、今は三匹獅子の文化を守ることが第一だ」と話す。
羽山神社は原発事故発生後、手入れができずに天井が落ちるなどして荒れている。信仰の場を取り戻すため、住民は社殿を山の麓に移すために動き出した。