戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第6部 文化(50) 芸術で距離縮める 「親近感取り戻して」

2022/06/04 10:20

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 森林は住民の暮らしの糧になるだけでなく、心の安らぎも与えている。東京電力福島第一原発事故で傷ついた森林文化を、芸術を通して見直す活動が西会津町で繰り広げられている。

 町役場の南側に山の神などを祭る大山祇神社の遥拝殿がある。付近の山林に参道があり、杉並木などの先に本殿がある。地元で摘んだシダやアジサイなどを身に着けた約20人の参加者が山の神になりきる。神社の参道から約100メートルの距離を歩き、境内の神楽殿に到着する。そして、笛などを演奏し、舞を披露する。山の神を身近に感じてもらうアートプログラム「草木をまとって山のかみさま」の一場面だ。

 県立博物館と会津地方の団体、県などでつくる実行委員会が2014(平成26)年から2017年まで会津地方1円で「森のはこ舟アートプロジェクト」を展開した。「山のかみさま」のプログラムは2014年、大阪府出身の華道家片桐功敦さんが監修し、西会津町で始まった。

 2015年からはNPO法人西会津国際芸術村が引き継いだ。会津若松市の会社員林あゆ美さん(54)は2014年にプログラムに参加した。放射線への不安から、山や森で子どもを遊ばせるのを不安に思っていた。当時12歳だった長女と一緒に参加し、「自然との距離が縮んだ気がした」と振り返る。参加者にとって、古里の豊かな山の文化を見つめるきっかけになっている。

 プログラムはコロナ禍で中止した2020(令和2)年以外、年1回、開催を続けている。今年も25日に実施する予定だ。芸術村ディレクターの矢部佳宏さん(43)は「山や森への親近感を取り戻してほしいというメッセージを込めている。アートを通して人々に考えてもらう機会をつくっていきたい」と継続する意義を強調する。

 原発事故によって、山や森との関係は危機に陥った。森林にまつわる文化は県民の心のよりどころになっている。復興へ向けた取り組みは、これからも続く。(第6部「文化」は終わります)