戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第7部 森と生きる(51) 未来に向け投資を 再生と販路拡大両輪

2022/06/19 14:17

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「森の在り方を考えてもらうための投資が求められる」と語る田子会長
「森の在り方を考えてもらうための投資が求められる」と語る田子会長

 東京電力福島第一原発事故発生から11年が過ぎても、県内の森林を取り巻く状況は厳しいままだ。生活の糧になり、安らぎの場でもある森の復活に向け、森と生きる人々に、何が必要かを聞いた。県森林組合連合会の田子英司会長(67)は「多くの人に森の在り方を認識してもらい、人を育てるための未来への投資が求められる」と指摘した。


 -福島県が抱える課題は。

 「スギやヒノキなどの針葉樹は原木・製材品の放射性物質検査を徹底して行い、一定の信頼を得て価格も原発事故発生前の水準に戻ってきた。だが、一大産地だったシイタケ原木は厳しい状況だ。ナラやクヌギなど原木になる広葉樹は一部を除いて出荷制限されている。育ち過ぎて伐採期を逃せば、新しい芽を出す萌芽(ほうが)力が下がり、成長のサイクルを維持するのが困難になる」

 -山菜やキノコ類の出荷制限も続く。

 「中山間地域の農家の収入を支えていた。人が里山に入る機会を失った状態が続いている。各地の集落も人が少なくなり、高齢化が進んでいる。荒廃が懸念される」

 -木材価格が急騰する「ウッドショック」が昨年から続いている。

 「国産材をアピールする機会だが、手放しで喜べない。木材市場の関係者から『需要が高まり単価が上がっているのに、なぜ木材が出てこないんだ』と言われたことがある。国産材は価格低迷が長く続いた結果、伐採や運送、製材の担い手が少なくなり、世代交代も進まずに供給網が細い血管のようになっている。需要が急増しても対応できず、原発事故の影響が残る県内でも難しい状況だ。連合会としても『県産材を使ってくれ』と言いながら、いざ求められた時に供給できず、手痛い経験をした」

 -人手不足の理由は。

 「平均給与が低く、気候の影響を大きく受ける上、危険も伴う。国は森林に携わる人の雇用を安定させ、より現場に利益を還元できる仕組みをつくってほしい」

 -SDGsやカーボンニュートラルを目指す動きも活発だ。

 「水資源や防災、二酸化炭素を吸収する役割など森林の公益的機能をアピールし、都市部の人にも身近なこととして感じてもらうようにしたい。将来を担う若い人たちにも森を知ってもらう機会を増やさなければならない」

 -森林の再生に向けて。

 「原発事故の影響からの脱却は最優先で取り組むべき課題だ。ただ、足かせを外す間に時代の流れから取り残されてしまっては元も子もない。森林再生と県産材の販路拡大を両輪で進めていく。一人一人が本気で県産材を使ってもらうという気持ちを持ち、競争力を高めていく必要がある」