
森や山に生きる動物を捕獲するマタギの猪俣昭夫さん(71)=金山町=は長年、山のありようを見守ってきた。「人間と森林は切っても切り離せない。これから何百年、何千年と共に歩み続けていく」と語る。
-人は自然と生きている。
「金山町は四方を山々に囲まれ、自然があふれている。輝く緑や生命の美しさに癒やされ、活力をもらっている。ワラビやゼンマイ、コゴミなどの山の幸も豊富にあり、住民は山の恩恵を享受しながら生きている」
-長年、マタギとして生きてきた。
「23歳から狩猟を始め、クマやイノシシ、シカなど野生動物と向き合い、多くの命を見つめてきた。獲物が捕れた時は感謝をささげるなどの掟(おきて)を重んじ、伝統的な狩りをしている」
-山の変化は。
「東京電力福島第一原発事故や地球温暖化などで変化が起きている。50年ほど前は雪深い奥会津にはイノシシやシカは生息していないといわれていた。それが15年ほど前から突如、姿を現すようになった。温暖化の影響で栃木県日光方面から来るようになったのではないかといわれている。原発事故発生後はイノシシなどが生息域を広げている。その一方で、狩猟者は減り続けている。金山町には50年前は約100人がいたが、今は10人程度だ」
-山は多くの人に恵みをもたらしている。
「県土の7割が森林に覆われている。人々は古くから山に入り、狩りをして山菜を採って暮らしてきた。人間と同じように山にあるもの全てに命が宿っている。先人たちから受け継いできた山を守らなければならない。野生キノコや山菜の出荷制限が県内の大半の市町村で続いている。放射線量の検査は続いているが、不安を拭えない人は多い。悔しい気持ちになる」
-山とどう付き合っていくのか。
「原発事故の放射線との闘いは、新型コロナウイルスとの闘いに似ている。長い年月をかけて一歩ずつ前に進んでいくしかない。今諦めてしまっては、山の恵みを今後守っていくのが難しくなる。今こそみんなで知恵を出し合っていく時だ」
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森や山は、そこに生きる人たちだけでなく、全ての県民にさまざまな恩恵をもたらす。原発事故は大きな傷痕を残しているが、再生に向けた歩みはこれからも続く。