今を生きる 薄磯の姿 伝えたい いわき ドライブイン再開

被災地の現状を伝える決意とともに店を再開した鈴木さん

■鈴木さん、復興の一歩踏み出す
 塩屋埼灯台のそばにあるいわき市平薄磯のドライブイン「山六観光」が1日、営業を再開した。観光名所としてにぎわった薄磯の姿は今はないが、社長の鈴木一好さん(60)は「被災地の現状を全国、世界に伝えたい。生きている限り」と決意を込める。
 灯台、美空ひばりさんの歌碑、雄大な太平洋。絶好の環境に恵まれた山六観光の周辺は、1日80台もの観光バスが訪れる市内有数の名所だった。3月11日を境に全てが変わった。
 津波は店舗のすぐ前まで押し寄せた。家族、建物は無事だった。しかし、慣れ親しんだ薄磯はなくなっていた。住民とともに行方不明者を捜した。親類だけで15人以上が犠牲になった。「もう商売はできない」。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故による打撃に加え、自身の気持ちも沈みきっていた。
 8月の新盆に合わせて行った地区の慰霊祭をきっかけに心境に変化が生まれた。「全てを失った人もいる。自分には残ったものがある」。できることをやっていく義務があると感じた。大きな被害を受けた地区の仲間に対して後ろめたい気持ちもあったが、「人がたくさん来るようになれば、道路などのインフラ整備も進む」と営業を前向きに考えた。何よりも、復興の一歩を少しでも踏み出したかった。
 震災直後は、被災地を訪れる見物客が我慢ならなかったが、今は「薄磯の姿を見てほしい」と思っている。灯台や歌碑の案内に加え、被災地の姿を伝えるという大きな仕事が増えた。再開後に訪れた観光客には「次に来るときは、薄磯はもっとよくなっているから」と約束する。
 地元の住民も早速、店を訪れ、"よりどころ"の役割も担う。「薄磯を発信する拠点はここ」。いわきの海を照らしてきた塩屋埼灯台のように、復興の道しるべを示していく。