今を生きる 古里の味届ける 周囲の支え力に限定復活 三春の秋まつり まんじゅう販売

久々に店に出すまんじゅうを大切に包むマスさん

■明治元年創業の富岡「五泉屋菓子店」
 富岡町夜の森で明治元年創業の「五泉屋菓子店」を営んでいた古内マスさん(66)は看板商品「五泉屋まんじゅう」を5、6の両日、三春町の秋まつり会場で販売した。警戒区域内にある店の将来が見通せない中、周囲の支えを力に限定復活を果たし、避難を続けるなじみ客に「古里の味」を届けた。
 息子で八代目の悟士さん(39)と嫁の和江さん(34)、夫忠雄さん(69)と4人で老舗を守ってきたが、3月11日に震災に襲われた。店内の商品を車に積んで避難先で配り、一家は郡山市といわき市に分かれて避難した。
 忠雄さんが体調を崩し、悟士さんは町臨時職員となる中、三春秋まつりに共催する富岡町から出店を誘われた。「最後の商売になるかもしれない」との思いから和江さんと震災以来初の営業を決意。菓子メーカーの「かんのや」に蒸し器、JAみちのく安達に作業場を借りて準備した。原材料の仕入れ先が普段と違うため、味を再現しきれないかもしれないという遠慮から、1個の値段を70円から50円に割り引いた。
 まつり会場に設けたブースには出店を聞いたなじみ客が避難先から続々と訪ねてきた。2日分と見込んだ500個は即日完売し、6日に急きょこしらえた200個も十分ほどでなくなった。三春町の仮設住宅で暮らす富岡町の大和田せつ子さん(62)は初日に買いそびれ、翌日に再来店した。「見ているだけで富岡を思い出す。家族や友人に配ります」と10個を大事そうに持ち帰った。
 マスさんが「これだけの人が来てくれてありがたい」と盛況に涙ぐむと、「お客さんに食べたいと言われるともっと作りたくなる」と和江さん。警戒区域内の店の再開は未定だが、2人の表情は充実感に満ちていた。